女体化ご注意。
休日だから会えないっていうのを寂しく思っちゃうくらいには、あたしはあの子に絆されているらしい。昨日の放課後、思い切って遊びに誘ってみたら、いつものように何を考えているのかイマイチ分かりづらい無表情で頷かれた。いつもうるさいくらいなのに、ふたりきりのときには彫像のような無表情に拍車がかかるのはどうしてなの。もしかして……と悪い方向に行きそうになる思考を、かぶりを振って打ち消す。ふと俯いていた顔を上げると、こちらを覗き込む知らない若い男がいた。そいつは軽い調子で声をかけてきたけど、こちらとしてはあの子─キースのことで頭がいっぱいなのだから返事をしてやれる余裕はない。余裕があってもこの手の類は無反応で返すけど。
「バリー!待った?」
聴き慣れたアルトボイスが響いて、口元に無意識に笑みを浮かべつつ振り返った。そこで凍りつく。
「な、何それ……?」
「ん?財布だけど」
キースは両サイドにあの子よりも数回り大きな体の男を連れていた。あっけらかんと答えたキースは無邪気に笑い、男たちはそんなキースを見下ろして目をハートマークにしている。
……うん、分かってはいた。キースはその容姿から、所謂ロリコンにそこそこ、いや、かなりモテる。それに加えて本人のプライドの高さと腕っぷしの強さがあるから、言ってしまえば『女王さま』になっちゃうのだ。たぶんここに来るまでの道中で言い寄ってきた男たちに色々と奢らせたんじゃないかな。財布呼ばわりだし。
遠い目をしていると、キースがその目尻を吊り上げてこちらにつかつかといつものちっちゃな歩幅で歩み寄ってきた。どうしたの?と問う間もなく、キースに腕を取られる。
「行こっか、バリー!」
「う、うん。……?」
財布くんたちに可愛らしく手を振って解散させると、キースはあたしの手を引いてずんずんと歩き出した。ぽかんとしているあたしの前にいた男の存在なんて全く無かったかのように。
その横顔は、うーんと、ちょっと怒ってる?
ある程度歩き続けて、どこまで行くのかなぁとぼんやり考えていると、キースが急に足を止めてこちらを振り返った。
やっぱり怒ってる。腕組みをしながら、いつも咥えている棒付きキャンディをガリガリと噛み砕いているし。
「なんで怒ってるの?」
「あんたねぇ、自分の魅力に無頓着過ぎ!服だっていっつも胸の露出多いし、ぽんやりしてるから男にすぐ付け入られるし」
ビシィッと指をこちらに突きつけてくるキースの言っていることは、まあ自覚がないわけではないんだけど、正直に言えばどうでもいいことだったりする。だって、あたしに勝てる男ってそうそう居ないし、食いついてきてくれるのは目の前のキースくらいだし。でも、キースがそう言うなら、あたしだって言いたいことはある。
「キースだって、露出多いじゃない。さっきみたいにお財布くん連れてさ、よってたかって襲われたらどうすんの。いくら強さに自信があっても無防備すぎるでしょ」
「私はいいの」
「良くない」
「「あんたは高いの!」」
頑として聞かないこの子に思わず声を荒げると、キースと台詞がまるっきり被った。お互いに「は?」と間の抜けた声を上げる。
「高いって……何?」
「こっちの台詞なんだけど」
「えっと、高嶺の花……的な意味、かな」
「それもこっちの台詞なんだけどな」
キースがあきれたようにため息混じりで言う。
なにこれ、もしかして両想いだったりするの?じゃなきゃキースの台詞に説明がつかない気がする。え、あたしの独り善がりじゃないってこと?期待しちゃうよ?いいの?
「いいよ」
キースがふいに言った。まるであたしの頭を覗いたみたいなタイミングで。内心パニックになっていると、キースが口を可愛くとがらせて答えをくれた。
「出てたよ、口から全部。両想いとかなんとか」
「えっ」
頬に熱さが集中する。身体中が火照って胸のあたりがきゅうんと音を立てた気がした。
思わずキースを抱き上げてその場でくるくると回る。
「わわっ、いきなり何すんの!」
「キースぅ!今日遊ぶ予定だったけどデートに予定変更しよ!ね!」
「一緒じゃん!ま、バリーがそうしたいなら、べつにかまわないけど?」
にょバリキスへのお題は『「私は高いわよ?」』です。
お題元様はこちらです。
https://shindanmaker.com/392860
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