一キルへのお題【「俺を苦しませて、楽しいですか」/君を連れて逃げ出せば良かった。/君と出会ったあの日は確か、】
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おまえと出逢ったあの日は確か、俺はまだ殆ど何も知らないガキだったな。思えばあの時おまえをねじ伏せてでも、あの場所から連れて逃げ出せば良かったんだ。
敵の尖兵だったおまえの話し方はのらりくらりとしていると思っていたが、後々思い返して見れば、かなり真摯に返事をくれていた方なんだって気づいたよ。おまえが俺が思っていたよりもかなり”まとも”だったってことにも。それどころか命懸けで上から与えられた”任務”に臨んでいたことも。だけどその気づきは、全てが終わった後に得たもので、既にこの世界の何処にもおまえは居なくなってた。
そう、思っていたんだ。
「……俺を苦しませて、愉しいか」
下駄帽子のあの人に訊ねる俺の声は思いの外弱々しく震え掠れてしまっていて。情けないな、仮にもおまえの前だっていうのに、と思えば自然に眉根が寄る。
「なぁに言ってるんスか。アタシは黒崎サンがあまりにも思い詰めたご様子だったから、仕方なぁく引き合わせて差し上げてるんスよ?」
剽軽にそうのたまう彼。
だが目の前の寝台に横たわるのは紛れもなく”おまえ”で。
「この方のお名前、キルゲ・オピーと云うそうですよ。黒崎サンはそれも聞かずに尸魂界に向かっちゃいましたけどね」
結局捕まってましたけど。と自虐的に、そして俺を嘲笑するように、彼は笑う。
そうか、おまえはキルゲと云うのか。舌に馴染ませるように、何度もおまえの名を呟く。
すると、下駄帽子の彼が「あ!」と一見嬉しそうに声を上げた。
「お目覚めのようっス」
俺は寝台に寄って膝をついた。手を握ろうとしてしまうのを抑えつつ、キルゲの顔を見つめる。
薄い瞼の下、眼球運動が見て取れる。そして。
ぱちり、と。キルゲは碧をのぞかせた。
その碧がきょろきょろと視線を巡らせて、やっと俺を見止める。俺は柄にもなく嬉しくなって、身を乗り出した。だが、キルゲは当惑した表情で俺を見て言った。
「あなたは……?」
それだけ言って下駄帽子を見上げる。
「ウラハラさん。このかたは……」
「クロサキさん。黒崎一護さんですよ〜」
場違いなほど暢気な声が実験室に響く。
「どういう……ことだよ」
立ち上がり下駄帽子の胸ぐらを掴んだ。彼はまったく怯んだ様子もなく説明する。
「精神汚染と記憶の混濁が激しかったので、洗浄して差し上げたんス」
ニコニコ、ニコニコ。人好きのする筈の笑みが今は空恐ろしい。
そのまま睨みつけていると、服の裾を軽く引っ張られた。下駄帽子を放して、キルゲの方を振り返る。
「やめてください……!」必死にそう訴えながら、片腕を支えに俺の服を引くキルゲはあの日と違い、怯えと怒りに震えていた。否、もしかすると、あの日と同じなのかもしれなかった。孤軍奮闘する様は勇ましかったが、独りであれだけの人数を相手にしていたのだから。
よく見れば、検査着の隙間から傷跡や生傷が見えた。
ああ、やっぱり。あの日、おまえを連れて逃げ出すべきだったんだ。
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一キルへのお題【「嘘だと言ってくれ」/「僕を愛してくれるなら」/いっそこの手で殺めてしまおうか。】
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嗚呼。そんな。どうか、どうか。
「嘘だと仰ってください」
「嘘なんかじゃねぇ。俺はおまえを、」
あいしてる。
愛する貴方の言葉、最後は恐ろしくて思わず自らの耳を塞いだ。貴方はそんな私を抱きすくめてくださる。ふるふると小さく抵抗の意を示すだけの私はあまりにも、弱い。
このようなこと、そもそも有り得てはならないのだ。
貴方には家族がいる。仲間がいる。護るべき者たちがいる。
それなのに。どうして私などを選べよう。
意を決して貴方のやわらかな拘束を振りほどく。ぱちくりと瞬く貴方の淡い瞳を見ていられない。知らず目を逸らし視線を足元に落とした私を、貴方は咎めない。しかし諦めるでもなく、只管に私を見つめてくる気配に怖気付く。
おそろしい。私を愛すと言って憚らない貴方がおそろしい。
「私などを愛してくださると仰るのなら……、」
──いっそこの手で殺めてしまおうか。
このような貴方など、──貴方であってはならない。
私の知る黒崎一護は、最早存在しないのだ。
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