お題:一番心臓に悪い存在になりたい

ジョニクロへのお題は『一番心臓に悪い存在になりたい』です。
お題元様はこちらです。
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「ジャァアアスティィスッ!!!」
飽きもしなければ懲りもせず、今日も奴はやって来た。得意満面で指を鳴らし、ご自慢のジャスティスコピーを召喚する。
「おう」
オレはと言えば、一応構えはするものの、当初のような畏怖や緊張感といった感情は薄れていた。
「…全然驚かないね」
オレの反応を見て、九郎は目を丸くしてぱちくりと瞬きをした。
「もう慣れちまった」
「傷つくなァ、その反応」
態とらしくがっくりと項垂れると、戦うことなく帰ってしまった。
次の日。
「じゃーん」
奴は両腕を広げて自らの一歩前に佇む人物を示した。その人物の特徴は、長い金髪を一くくりにし黒いコートを素肌に羽織り、太刀を携えているというものだった。サングラスをずらせば、青い瞳が覗いている。
「なんだ、こりゃ」
「君のコピーだよ。びっくりした?」
わくわくとある種子供のような純粋な瞳でこちらを見る九郎に、ちょっとしたいたずら心が頭を擡げる。
「別に」
「なぁんだ、残念」
実はちょっと驚いていたが、努めて冷静な言葉を返した。こちらのそんな態度にもめげず、九郎は幻影を打ち消し飄々と去っていった。
次の日。
「…やぁ」
「こりゃまた随分と顔色が悪いな」
来ることはわかっていたが、いつにもまして悪い顔色に少し驚く。
いつものようににやにやと笑ってはいるが声音には覇気がない。
「あんまり驚いてくれないものだから…ヤケになってある薬品、飲んじゃったんだ…ふふふ、びっくりした…?」
「な、にやってんだ馬鹿野郎!!」
ふらりと倒れそうになるのを思わず抱きとめると、九郎は弱々しくも嬉しそうに微笑った。状況にそぐわない安らかな表情と声に、焦りを覚えて言葉を荒げてしまう。
「何でそうまでして…!」
こいつに真っ当な答えを期待しても意味はないと知りつつも、思わず問いかける。
「君にとって一番心臓に悪い存在になりたいんだ」
「なんだって?」
返ってきた答えは意外すぎるものだった。だって、それではまるで…。
「僕自身もよく分からない…でも本当だよ」
九郎の言葉にはいつものような悪意や毒気は含まれていないように感じられた。
意識を保つのも辛そうなのに、縋るような真摯な台詞を吐く九郎。それを目の当たりにして、どうにかしてやりたいという気持ちが芽生えた。
「……どうすれば解毒できる?」
耳元で囁くように優しく問いかける。九郎はくすぐったそうに身を竦め、思案するように視線をふいと下に向けた。
「うーん、そうだなぁ…このままぎゅってしてくれてればいいや」
「はぁ?」
なんとも気の抜けた答えに素っ頓狂な声を上げる。そんな俺に構わずに、九郎は静かに目を閉じてしまう。
「おやすみなさい、ジョニー君…」
「あ、おいッ!」
がくんと力の抜けきった身体を支え直すと、九郎の懐から瓶が転がり落ちた。
九郎を抱えたまましゃがみ込んでそのラベルを見る。
「こいつは…睡眠薬…?」
腕の中ですやすやと寝息を立てている九郎を見遣る。その口元は緩やかに弧を描いている。
「一応ドクターに診せるか…」
ヤケになったと言っていた。もしかしたら薬の用量を超えているかもしれない。そうなれば本当に事だ。
「ったく…驚かせやがって」
『一番心臓に悪い存在になりたい』という九郎の言葉と、今のこの状況に陥らせた彼の真意は今は考えないことにした。

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