涙花

クロウ博士は左目から真っ青な花が咲く病気です。進行すると一日を殆ど眠って過ごすようになります。愛する者の涙が薬になります。

お題元様はこちらです。
https://shindanmaker.com/339665

とある作品様の影響受けまくりです。しかも途中から始まります。ご容赦ください。

不在の間に病は進行してしまったらしく、博士は珍しく昼間から眠っていた。
採取してきた涙を片っ端から口に含ませていくが目覚めない。
途方に暮れる。
例えようのない不安に襲われて、とにかく心細くて仕方がない。
こんな感覚は初めてで、どうしたらいいか分からず、思わず博士の手を握り安らかな寝顔を覗き込む。
真っ青な花は懐かしい駄目博士の法力の色。
彼の生命を糧に咲き誇る花が恐ろしく、何もできない自分がもどかしく、普段なら「痛いよ」と苦笑して目覚めてくれるほどに、握った手に力がこもる。
もう二度と、この手は自分を撫でてはくれない。
溜息混じりに笑いかけながら、修理してくれることもない。
このままゆっくりと死を待つだけの、大切な、ひと。
思考がそこまで至ると同時に、大破した顔面からオイルが一筋、博士の唇に落ちてしまった。
慌てて拭き取ろうとするが、とろりと隙間に流れ込んだ後、博士の喉がこくりと動いた。
その刹那、ぱちりと駄目博士の右瞼が開き、昏い輝きを持った色の瞳が現れる。
そして。
「不味っ!え、なにこれ?」
飛び起き目を白黒させる駄目博士を見て、あっけにとられていると、瞬きしてから、ゆるりとこちらに視線が向けられた。
十秒ほど見つめ合ってから博士が口を開く。
「涙を流す機能なんて僕には作れなかったけど。君の精神の成長に、僕は救われたんだねェ。……それにしても、オイルが涙の代わりでいいって、大丈夫なのか、僕の体は」
苦笑しながら、くしゃりとこちらの頭を撫でてくれる手がどうしようもなく優しくて。目の代わりとなるライトの下に入った亀裂から、またオイルが溢れて止まらなくなる。
「ふふ、兵器なのに随分と泣き虫さんになっちゃったねェ。ごめんね、強く生んであげられなくて。でも、そんな君が、僕は…」
そう言って微笑む博士の左目から、あの真っ青な花弁が、涙のようにはらりはらりとこぼれていった。

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