雪花

ジョニクロ出会い捏造です。幼少博士に夢を見すぎています。お嫌な方はお逃げくださいませ。

雪が降っている。
たった一晩でここ、「コロニー」を真っ白に塗り替えたが、依然として止む気配がない。
俺はといえば、襤褸切れのようなコートを頭から被って、師匠の家へと急いでいる最中だ。
すると俯いた視界の端に、何かを捉えた。
真っ白な世界に鮮やかな朱色の傘が突然現れて、思わず足を止める。
道端にしゃがみ込んでこちらを不思議そうに見上げたのは、いつか師匠の家で見たジャパニーズ・ドールそのものといった風貌の少女だった。
きっちりと真ん中で分けられた黒髪は所謂烏の濡れ羽色というやつ(後々師匠から聞いた)で、これまた真っ黒なキモノを着ている。蒼白とも言えそうな顔のほっぺたと、つんと尖った鼻先だけを赤く染めているのがなんとも可愛らしい。整った容貌の中でも特に印象的なのは、暗い銀灰色の瞳だった。薄っすらとした眉のもと、つり目がちな瞳がきらきらと光を反射している様に目を奪われ言葉を失う。すると、血色の薄い唇が遠慮がちに開いた。
「……おはよう」
鈴を転がすような、というのはこういう声を言うのだろうと思ったと同時に、少女が言葉を発したことにどきりとする。あまりにも人形じみていたものだから、思わず「しゃべった!?」と思ってしまった。
軽い罪悪感と焦りを覚えながら返事をする。
「m、mornin’、おじょうさん。オレはジョニー、きみは?」
吃った、という痛恨のミスにもめげずに言い切ると、少女は一瞬きょとんとしてこちらを見つめた。
何か失礼なことを言っただろうか、と心配になるような間をたっぷりと開けた後、小首を傾げた少女がようやく言葉を返してきた。
「…ボクは九郎」
Crow、女の子にカラスか、変わった名前だなぁと思っていると、少女が言葉を続けた。
「キミ、ボクたちのことば、上手だね」
にこり、とやはり人形じみた笑みを口元に浮かべる少女。
「サンキュー。師匠のおかげだな。ところで、こんなとこで何してるんだ?」
「…お花がね、咲いてたんだ。雪に埋もれそうだから、傘をね」
「やさしいんだな。それにしても、花って、きみの事か?」
言ってしまってから、師匠の言葉を思い出す。ジャパニーズの女性は照れ屋が多い。確かそのようなことを言っていたはずだ。お、奥ゆかしい?だったっけ。
こんなザ・ジャパニーズみたいな女の子に、いつもの自分のやり方で直球を投げたら逃げられてしまうかも知れない。
慌てて訂正しようと口を開きかける。その時。
「……ふ、ふふふ…あはははは!」
先程までとは打って変わり、大笑いする少女を前にあっけにとられる。
呆然と少女を見つめていると、彼女は「ごめんね」と謝ってきた。
別に謝る必要なんか無いとか、色々言いたいことはあったが咄嗟に口をついて出てきた言葉は、
「惚れた…!」
だった。
どこか冷たく人形っぽいという第一印象を覆す、仄かに血の気がさしたあたたかな笑顔にやられた。無邪気に笑う姿は可憐で、ずっと見ていたくなる。
少女の横にしゃがみこんで、彼女の冷え切った両手を取ってきゅっと握りしめる。今度は少女があっけにとられる番だ。
「ケッコンはしない主義だが、いつか必ずきみを手に入れるぜ」
「ふふっ、できるものなら、どうぞ?」
オレの一世一代の告白に、少女は悪戯っぽく微笑った。

九郎さんも初めはジョニー君のことを「お人形さんみたいな女の子だなァ…」と思って見てたらいいと思います。

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