3つの恋のお題:どうしよう、変な気持ちになってきた/抱きしめたら消えてしまいそう/あと少しだけこのままで

ジョニクロへの3つの恋のお題:どうしよう、変な気持ちになってきた/抱きしめたら消えてしまいそう/あと少しだけこのままで

※郭羽さんなのに、何らかの理由で本当にジョニーの事を忘れている、という妄想です。書いた本人が一番よく分かっていません。

「やァ、いらっしゃい。この気配はジョニー君だね?」
アホかこいつは、と思った。敵が攻めてきているのにふざけたことしやがる、と。
「こんな状態ですまないね。でもこうしておかないと大変なことになるからさ」
こちらの剣呑な雰囲気を読み取ったのか、軽い調子で謝られる。
奴の言う「こんな状態」というのはいわゆる「目隠し」と言うものだった。
普段使いのアイマスクだろうか、黒い生地に小さな三角が二つ付いた猫のような形の目隠しをして、口元にはあのにやにやとした笑みを貼り付けている。
「実験に失敗しちゃって。本当は僕のお姫様に使う予定の法術だったんだけど、暴発して僕自身にかかっちゃったんだよ」
お姫様という表現にぞわりと総毛立つ。ろくな代物ではないのだろうことは予想できた。
それにしても、結構まずい状況じゃないのか…?と思ったが口には出さないでおく。
こちらが相槌を打たなくとも奴は勝手にぺらぺらと喋り続ける。
「どんな効果か知りたいだろう? 僕だったら知りたいと思うなァ。いくら女の子のことしか考えてない君だってそれくらいの知識欲はあるだろう。実はね、この法術の効果は…」
「オイ!九時ニハ起コセト言ッタダロウ駄目博士!」
どん、と。奴の後ろからロボカイが現れて奴の背を勢い良く押した。と言うよりは、扉の目前に立っていた奴に事故的にぶつかってしまったらしい。まずいと思ったらしく、ロボカイはそのまま仮眠室の扉を静かに閉めた。
ずべっと顔から転んだ奴はしばしの沈黙のあと、むくりと身を起こす。
「…もう、扉を開けるときはそぉっとっていつも言ってるじゃんか」
その目元からアイマスクが消えていることに気づくのに数秒を要した。
奴自身も何が起きたのか理解に時間がかかるらしくまたしばらくの沈黙が訪れる。
ばっちりこちらと目が合った状態で。
「…さっきの続き。この法術の効果はね、初めて見た相手を好きになっちゃうっていうよくある惚れ薬的なものなんだ。半分お遊びで作ったんだけど…」
ぼんやりとした様子でこちらを見上げ、半ば夢見心地な声音で説明を続ける奴の言葉に悪寒が走った。
「どうやら実験は成功していたようだ」
立ち上がって服についた埃を払いながら恐ろしいことを言ってのける。
「どうしよう、変な気持ちになってきた」
ジョニー君…。なんて熱の篭った声で呼ばれる。熱い愛のセリフは大歓迎だが、男の低い声で呼ばれてもなんにも嬉しくないどころか、萎えて仕方がない。ここは退くのが得策かと思い踵を返すと、コートの端をきゅっと掴まれる。
「どうしたら良い…? なんだか怖いよ」
いつものこちらを小馬鹿にするような態度はなりを潜め、本当に心細そうにこちらを見上げてくる奴に目眩がした。それと同時に、かつての奴の姿がフラッシュバックする。あの頃も、自信なさげにこちらの衣服をつまみ、見上げてきていた。
思わず奴の手に自分のそれを重ねる。びくりと揺れる肩を引き寄せたい衝動に駆られるが、今の奴は抱きしめれば消えてしまいそうなほどに弱々しかった。
「…どんな気持ちなんだ?」
顔を覗き込んでそう問えば、灰色の瞳が所在無さげに揺れる。
「…君が恋しい、のかな? 上手く説明できそうもないや。どこにも行ってほしくない、そばにいて欲しい。でもずっと近くにいたんじゃ、心臓がもたないよ。君の事を考えると何もかも矛盾しちゃって頭の中がぐちゃぐちゃ…こんなの初めてで怖いんだ」
吐き出される想いを懐かしいような感覚を持って黙って聞いていた。
何時かの奴もこんな風に混乱したまんまの気持ちをこちらにぶつけてきたっけか…。
そう思うと、途端に奴が何者にも代え難い存在に感じられてくる。この感覚は久しぶりだ。死んだとばかり思っていたあの男が、今まさに自分の手の中に戻ってこようとしているのだ。
だが、これはあくまで法術の効果によるもので、奴の本来の気持ちではない。そこにつけ込むのは男としてやってはいけない事だと心に決める。
「その気持ちが嬉しくないわけじゃァないが、今は法術を解くのが先決だ。何をすれば解除できる?」
「まだ実験段階だったから…簡単に解けるよ。ただ、抱きしめればいい。…でもそんなことして欲しくないよ。この気持ちを忘れたくない」
コートを握る手に力が篭められる。悲壮な懇願だった。
だが、それに応えてやることはできない。そう決心したのだから。
「抱きしめる、か。ずいぶんと慎ましい方法じゃねぇか。てっきりもっとえげつないもんかと思ったぜ」
普段の奴ならやりかねない。
「本当にするの…?」
「あぁ、それでももし…いや、言うべきじゃァねぇな。黙って抱かれていつものお前に戻れ。それが今の俺たちの有るべき姿だろう」
奴の華奢すぎる肩を引き寄せる。言葉では拒否をしていたが、そのままぐっと腕の中に閉じ込めれば、存外従順にすっぽりと収まってしまう。
久しく触れていなかった奴の低い体温に懐かしさを抑えきれず、つい力を込める。
「…九郎」
そろそろか、と思ったところで奴の体がびくりと震えた。
「ジョニー…、きみは…」
「戻ったか」
潔く身を離そうとすると背に腕を回された。
「…あと少しだけ、このままで」
お願い。法術は解けたはずにもかかわらず、奴の声はか細く頼りないままだった。

お題元様はこちらです。
https://shindanmaker.com/a/125562

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