後戻りはできないが、覚悟はいいか


Küss Michのつづきのようなもの

R18ご注意。






このところ、というか具体的に言えば”あの”放課後以来、キースがふらりと姿を消すようになった。
授業中急に立ち上がったと思ったら、教師の制止の声も聞こえていないようにふらふらと教室を出ていってしまったり、昼休みに購買へ走ったはずが戻って来ず午後の授業が始まる直前に空き教室からひょっこり現れてみたりと、いろいろだ。他の奴らが言うには、葉巻を堂々と吸う為に場所を変えているのではないかとのことだが、あいつは教師の前でも何の気兼ねも無く葉巻をふかしているようなやつだ。あれは間違い無くチェーンスモーカーだが、まあ、それはさておき。
今日も今日とて、体育の授業中にキースは消えた。チーム分けの際クラスの奴らが俺を自分たちの方に引き入れようと言い争っている間に。グラウンドをぐるりと見回す。だが水色の三日月はどこにも見当たらない。隣で腕組みをしてクラスの奴らを傍観している黒髪のクラスメイトに一言告げて、場を離れる。
自然と早足になるのは、心配だから、とかでは断じて無い。ただ気になるだけだ。あいつがどこかに消えるたびに、何故か人間界で最後に見たあいつの力無い笑みを思い出すから。
グラウンドという開けた場所からの移動の為、そう遠くへは行けないだろうと考える。となれば、ぽつんとグラウンドの隅に佇む体育倉庫しかあるまい。近づいて行くと、砂埃にまみれて少しだけひずんだ鉄扉が微かに開いているのが分かった。
その隙間から滑るように極力音を立てず入り込む。格子の付いた小さな明かり取りからの光が、埃っぽい室内の空気をきらきらと輝かせている。後ろ手に扉を閉めながら視線を下げると、跳び箱の影から見覚えのあり過ぎる丸っこい足がのぞいているのに気づいた。白くてかたいマットを数枚重ねた簡易ベッドのようなものの上にやつは居た。と言っても身動ぎもしない。眠っているようだった。
仰向けに寝転び、がっしりとした手は腹の上。
色硝子のような目は今は閉ざされ、顔だけ見れば美術の教科書でパラ見した彫刻の様だ。視線をずらして体の方を見れば、こどもの玩具の様だという印象しか持てないが。
どうしてかは分からないが起こすのは忍びない気がして、衣擦れの音すら響かせないよう注意しながらキースのそばに腰を下ろす。
あぐらをかいた膝の上に頬杖をつき、穏やかな寝息をたてるキースを何とはなしに見つめる。いつもビームを撃ったり腕が伸びたりと忙しいため見落としがちだが、小さいな、と改めて思った。背丈だけなら、王となったあのおさなごといい勝負だ。顔つきや手なんかは年相応の為に全体像はアンバランスな筈なのだが、これはこれで有りなんだろうと思わされる辺り、だいぶこいつに毒されている気がして癪だった。やっぱり叩き起こしてやろうかと思ってキースに手を伸ばしかけて止める。中途半端な位置で止まった手を所在なく彷徨わせていた拍子、あろうことかキースの唇に触れてしまった。硬質なイメージだったそのかんばせが、想像以上にやわらかい事を思い出し、頬に熱が昇るのを自覚する。
……キス、したんだよなぁ。こいつと。
放課後の教室でのあの一度のみだが、確かに俺はこの自称ライバルとキスをしたのだった。
あの時のこいつは心身共に弱っていたからこそ、そんな事態が有り得てしまったのだと言う事はわかる。わかってはいるのだ。だが、何故かもう一度、と考えてしまう自分もいて。
今度は明確な意思を持ってキースの唇に触れる。ふに、と下唇をひとさし指で撫で、手を引こうとした瞬間。
ちゅぷっ、と。音を立てて。
キースが、俺の指先を食んだ。そして、ちうちうと乳飲み子がそうする様に、吸いつき始めた。
あまりの事に頭がついていかない。
起きたのか? いや、仮に起きていたとしたら、こいつは絶対にこんな事はしない。そう確信を持って言える。プライドの高さだけは俺以上だから。こんな、こんな赤ん坊みたいな甘えた行為を、悪ふざけでもする事はないはずだ。
様々な疑問や焦りが脳裏で渦巻く。その間も、ちゅくちゅく、ちゅっちゅと、可愛らしいような、それでいて扇情的なような音が室内に響いている。
次第に身体の温度が上がってきているのが如実に分かって非常にまずい。
現実逃避なのか何なのか、かつて人間界でパートナーだった頑健な男に、何故喫煙するのか訊ねてみたことをふと思い出した。彼は、美味いからなどというのは建前で、本当は口寂しいのだと、今はもう決して得られない物の代用品として煙草を燻らすのだと言っていた。その代用される物は何だと訊いても肩をすくめてはぐらかされたのが懐かしい。
はっと意識を目の前の同級生に戻す。同時に、指をその口から引き抜いた。
むにゃむにゃとした後、キースは薄っすらと瞼を開ける。
「ぅ……ん、ばりー……?」
夢うつつで舌足らずな口調は存外幼く、あの放課後の様に胸が高鳴った。
「ぉ、おう、ようやく起きたか。キース」
キースは目元をこすりながら起き上がり、マットの上に俺と同じようにあぐらをかいた。
「んー……おまえの指がぜんぶ葉巻になる夢を見たぞ」
へにゃりと笑った平和ボケしたキースの言葉に、あながち間違ってはいないな、とは口が裂けても言えなかった。唾液で濡れた指が、外気に触れひやりとする。それでも未だ身体には熱が籠もっている事に驚きながら、とりあえずここ最近ずっと気になっていた疑問を口にした。
「……いつも、寝てたのか」
俺のこの言葉に、眠気が醒めたのか先程まで笑みをつくっていた彫像じみた容貌をゆがめて、やつはあからさまに嫌そうな顔をした。
「バリー、おまえは一体何をしに来たんだ」
私の気も知らないで、と吐き捨てるように言う。
「知る訳ねぇだろうが。気付いたらふらっと居なくなってて、戻ってきたと思ったらいつも以上のから元気で何かを誤魔化しやがる。それで察して欲しいなんざ自分勝手すぎるんじゃねえか」
言い終わってすぐ、しまったと思った。こんな口調で、未練がましく責める言葉を投げつけては、キースを傷つけてしまうだけだろう。俺はここに至って初めて、自分が思っていたよりもこいつに対して強い感情を持っていたことを自覚した。
そして案の定、あぁ、泣くなコレ。
そう思ったと同時に、キースの目から大粒の透明な雫がこぼれ落ちた。だが表情自体は凪いでいる、というか、その目から次々に溢れ出る激情の割に何も表現していない、感情が抜け落ちてしまったような顔をしている。もともと感情豊かで泣いたり笑ったり歌ったりと忙しいやつだが、今まで一度も見た事がない反応に、俺はものすごく焦った。挙げ句、らしくもなくおろおろと言葉を選ぶことになった。
「泣くなよ……その……、悪かったから」
かつての自分なら絶対に口にしなかったであろう謝罪の言葉がほろりとまろび出て、自分でも驚きながら、両親指のはらでキースの頬を拭うが、泣き止んでくれる気配はない。先の戦いに臨む前は、何度も挑んでくるこいつを負かしてはおおいに悔し泣きさせていたが、このように静かに泣くのを見るとどうしたらいいのか分からなくなる。
ひたすら狼狽えたおして、それでも涙だけは拭っていると、キースがやっと口を開いた。
「謝るんじゃない……おまえに謝られたら、私は、私は……」
無表情で独白の様に言ってから、その眉間に薄く縦皺を刻む。言葉はそれ以上続かず、溜息をついてから小さな子がそうする様に唇をとがらせて、キースは話の舵を切った。
「バリー。あの日、私がおまえに惚れていると言ったな」
あの日とは、初めて口づけを交わした放課後の事を言っていると分かり、ようやく鎮まりかけていた熱がぶり返す。
そう、随分大胆な事を言った筈だ。恥ずかし過ぎて胸の奥にしまい込んでいたが、確かに言った。
「だが、おまえはどうなんだ。あ、あの口づけを夢に見て私はろくに眠れず、こうして限界を迎えた時にのみ細切れでしか睡眠をとれないと言うのに」
あれ?と思った。胸の辺りがつきんと痛んだからだ。キースの言葉を咀嚼して呑み下すと、余計にその痛みは増した。
ずきずき、どくどくと、胸が音を立てて鈍く鋭く痛み続ける。
あぁ、あの放課後キースが言っていた疼痛とはこの事だったのかと、ようやく身を以て理解した。
と、言う事はだ。キースに向けて放ったあの日の台詞が今、自分にはね返って来る事になる。
『出逢ったその瞬間から俺に惚れてたんだ。ライバルとして、そして、ひとりの魔物として』
いやいや、おかしいだろ。出逢った瞬間はただ生意気なクソガキだと思っただけだった筈だ。だが、惚れてもいない相手に口付けて貪るなど、それこそ狂気の沙汰だし何より不誠実過ぎる。それにあの口付けは俺にとっても初めてだったわけで……。そう言えばこいつの初めてもあの時だったのか?いや待て、そこを気にし出すと余計にこいつに執着してる事になっちまわねぇか……?
ぐるぐると混乱する頭を持て余し気味に抱えて俯く。身体が熱い。局所的にも全体的にも熱が籠もる。……まずい。
早くこの場を離れなければと悟った瞬間に、キースのその体躯の割に大きな手が俺の膝に置かれた。
びくりと全身が跳ねる。冷汗が背を伝うのに、熱い。
「おい、バリー?何かおかしいぞ、一体どうし……ッ!?んんんッ!!」
不安そうに俺を見上げていたキースの台詞は最後まで言い切られる事は無かった。
口付けながら、抵抗するならしてくれと祈る。キースを想うと込み上げる熱と痛みに衝き動かされ、俺は俺の半分ほどしかない体を掻き抱き、その背を、腹を、太腿をまさぐる事しかできない。
これでは駄目だと、脳内では警鐘が鳴り続けている。
実力差的にも体格差的にもキースが俺を止める事は難しいだろうが、それでも、否だからこそ、少しでも抵抗の兆しがあれば是が非でも押し留まるつもりでいた。
それなのにあろうことかキースは、俺の背に手を添えたのだ。
「クッ……!!」
もう、止まれない。
口付けをより深める。しっかりと揃った歯列を舌でなぞり、先程からつかまえる事のできなかったキースの舌をやっととらえる。絡め、啜り、甘く歯を立てると、キースの程良いテノールが耳に心地よく響いた。
「んぅんん、は……ばりぃ、」
「キース……っ!」
口付けの合間を縫うように名を呼ばれ更に昂まるのを自覚し、呼び返した声に余裕は全く無かった。
キースの太腿を撫でさする。その付け根の辺りに触れると、ひくりと身体を震わせて甘い声を洩らしたのを見逃さず、今度は触れるか触れないかのフェザータッチで撫でた。
顔が見たくて口唇を解放しキースを見下ろす。涙を湛えてこちらを見つめるキースは頬を真っ赤に染めてとろけた顔をしていた。視線を下げれば、もじもじと焦れたように太腿どうしをすり合わせている。俺だけではなくキースも欲情している事が分かり、嬉しいようなこそばゆいような気分になる。だってあのキースが、いつも騒がしく全身で遊び回っている十七歳児とでも呼びたくなるようなやつが、俺の下に横たわり、はふはふと呼吸を荒くし、物欲しそうに俺の一挙手一投足をおとなしく待っているのだ。
興奮しないわけがなかった。
もういい、もう認める。俺はキースが好きだ。
そしてキースも俺が好き。いわゆる両想いと言うやつなんだろう。
いつから好きかなんて分からない。初めて殴り合った時にはこんな事になるなんて思いもしなかったが、もしかしたら何度打ち負かしてもキラキラした目で挑んでくるそのしつこさにいつの間にか絆されていたのかも知れない。
濁った目で挑まれたあの時、俺は物凄く残念に思った。俺と戦う時はいつだって嬉しそうに輝いていたあの目が曇り切ってしまった事が悔しくて、哀しくて、腹が立ったのだ。
だからこそ、徹底的に打ち倒した。俺を見ているようで見ていないキースが許せないという子どもじみた嫉妬を、こいつを倒さねば先には進めないという使命感でひた隠して。
求めあう事が許されない間柄だと無意識に思っていた。同性でライバル。確かにこの関係を歪める事は、道を踏み外す事と同義なのだろう。
それでも、と思う。キースが、俺を求めている。そして俺も、キースを名実ともに自分のものにしたいと切望している。
それだけでもう十分ではないか。 好き合うふたりが身体を重ねて何が悪い。
改めて決意を固めた俺は、火照る身体を持て余し、キースを抱き締めた。半分ほど血の通った金属でできたキースの身体も俺と同じくらいに熱かった。
ふと、腹の辺りに違和感を覚えてキースを見る。気まずそうに頬を染めて目線を逸らすキースに、俺は嬉しくなった。
「ちゃんと感じてくれてたんだな」
「……言わんでいい」
照れからむすっとしているキースを微笑ましく思いながら抱き上げると、あぐらをかいて俺の膝上に座らせる。
俯いて視線を彷徨わせるキースの顎に手を添え、目線を絡めた。
「なぁ、正直に言うぞ」
なんだ?と問う代わりに小首を傾げたキースに顔を寄せ、
「おまえが欲しい。……いいか?」
囁いた。するとやつはフッと笑って言う。
「随分と今更ではないか、バリー。おまえが言ったんだぞ。私が既におまえに惚れていると。それに、ここまで来ておいて逃げる程意気地なしだとでも思っているのか?」
膝の上で蠱惑的に微笑む元ライバルに応えるように俺は噛み付くように口付ける。
同時にその下履きの中にそろりと手を忍ばせた。身体のサイズに見合った小ささの雄蕊に触れれば、キースが鼻に抜けるような扇情的な声を上げる。俺の手の中で健気に育つソコを優しく細心の注意を払って扱いていくと、キースは俺の背をタップして口付けを中断させた。ぷはっと息を吐いたあと訴えてくる。
「ぁ、わたしばっかり、」
「俺がこうしたいからしているだけだ。気にするな」
「きになるに、決まってるだろう、ぅッ」
そう言うなりキースは俺の股座に触れてきた。そして、ヒッ、と息を呑んだ。
「怖気づいたか、キース」
中心を刺激しながら問えば、息も絶え絶えに首を横に振られる。
限界が近づいたのか、ふるりと身震いをしてしがみついてくるのを正面から抱き竦めた。
「んぁ、は、ばりー、も、でちゃうから……ッ」
「うん、一回イっとけ」
「ぇ?あ、ま、待って……ぃ、イク、い、やぁ、──ッ!!!」
「よし」
とぷっと溢れた白濁を手のひらで受け止める。そしてそのぬめりを指に絡めて更に奥へと手を進めて、ほっとした。
「おまえにも後ろの穴、あるんだな」
「あ、当たり前だ、と言いたいところだが使った事は無いぞ。ソコは、名残りみたいなもので」
イったばかりで息を切らしながらの説明を受ける。
慎ましいその入口の縁を円を描くようになぞり、思い切って人差し指の第一関節をつぷっと挿入してみると、キースがくぐもった悲鳴を上げた。
名残りと言うには奥行きがありそうなソコをこじ開けるようにぬめる指をちゅぽちゅぽと抜き差しする。とにかく慣らさなければという思いと、気持ちよくなれるらしいあの場所を早く探り当ててやりたくて焦る。今のままではキースは苦痛しかないだろうし、俺自身限界が近かった。
指を三本に増やせる頃にはだいぶ時間が過ぎていた。我慢した俺、大したものだ。授業終了の鐘が鳴るのが遠く聞こえる。その時だった。
「なぁ、ばりー……、ん、わたしは平気だから、もぅ……!?──んんぁあッ!!?」
「やっと見つけた」
「んな、なに、これぇ……ッ!!」
「気持ちいいか?」
抱きついてくるキースは初めての感覚に混乱し切っているようで、ふるふるとかぶりを振っている。
「わか、んなぃ!ばりぃ、そこ、やめてぇ!」
喋り方がいつもの背伸びして気取ったものから、歳相応以下に幼いものになり、何だかとてもいけない事をしているような気分になってくる。まあ、いけない事なのは確かなんだろうが。
ぐりぐりとキースが甘えてくるため、溢れて止まらないであろう涙で肩が濡れるのが分かる。
片手でキースの背中を優しくポンポンと叩きながら、もう片方の手は責め立てるのをやめない。抱きしめていると改めてキースの小ささが伝わってきて、本当にこの身体に俺のが収まるのか心配になってくる。そんな俺の不安を感じ取ったのか、キースは俺の肩口でフッと笑ったようだった。
「ばりぃ、も、きてくれ……!!」
いいんだな、とは敢えて訊かなかった。プライドの高いキースの決死の誘いだ。無粋な言葉でそれを無下にする事はしたくなかった。
ジッパーを下げ、キースを抱き上げると、痛い程主張している自分自身を慣らしたキースのソコにあてがう。ちう、と蕩けた入口と先端が触れ合った。
「ッキース、腰落とせ。ゆっくり、な」
「ふ、ぁああッ……」
慣らしは十分だったのか、キースの小さなソコは一番キツいであろう箇所を柔らかく飲み込んでいった。
そこで気付いた。このままではキースの最奥を突いてしまうのではないかと。
ただでさえ狭く浅いソコだ。しかも初めて。俺の物騒なモノが奥に行ったら、キースを壊してしまうかも知れない。
俺はキースの背を支えて、再びベッドもどきの上に身を横たえさせた。その上に覆い被さるようにして挿入の続きを引き受ける。キースは何故か少し不満げな表情を見せたが、俺が少し突き上げるとその一瞬の余裕も霧消したようだった。
半分程しか挿入していないが、キースの弱い所には届くので良しとした。
ちゅこちゅことキースの弱点めがけて抽挿を繰り返せば、ひっきりなしに甘い悲鳴が上がる。
「大丈夫か……?痛くはないか?」
「んんっ、はぁ、平気……だからもっとぉ」
「よしよし、このまま気持ちよくなっちまおうな」
「ちが、ちがくてぇ……ッもっと奥ぅ!」
ハッとした。気付かれていたのか。
「ッ……おまえを傷付けたくねぇんだよ」
刹那、胸ぐらを掴まれる。そして、涙で烟った色硝子の目でしかと見つめられた。ああ、俺はこの真っ直ぐな目が好きなんだ。俺しか映していない澄んだ目が。
「見縊るなよ……ヤるならとことんヤりやがれ」
言って、ちゅっと啄むような口付け。
俺はたまらなくなった。この小さな体躯で俺を懸命に受け入れようとしてくれているという事実に、そして、快楽に呑まれた状態でも正気を一瞬でも取り戻したキースの気持ちの強さに。
「分かった、もう俺も我慢しねぇ。覚悟しとけよ」
腰を押し進める。とはいえ、なるべくショックが少ないように、ゆっくり、じっくりと。
しかし、途中で問題が発生した。明らかに狭く、これ以上は無理だ、とでも言いたげな部分に差し掛かってしまったのだ。
キースの顔に口付けをいくつも贈り、体中を柔く撫であげながら、リラックスを促す。
「息を吐いてできるだけ力を抜け、キース」
「は、ぁ……」
その隙を突くように、腰を思い切り打ちつけた。
ごちゅん、という感覚と共に、俺自身がすべてキースの胎内に収まる。
その衝撃に、キースがかひゅっと息を詰めた。
「ッいあ゛ァあ!!?」
見るからに無理をさせているのが分かったが、キースの胎内の熱とやわやわと揉み込まれるような感触に、無意識に腰が動いてしまう。見れば、キースの腹が俺の抽挿に合わせてうごめく光景が、物凄く背徳的で不健全で扇情的に映った。
「ばりぃ、こわい、わたしのからだぁ、あ゛、どう、しちゃったんだ……ッ!??」
「俺のカタチに合わせて変わっていってるんだよ。俺専用になっちまったな?」
この言葉に、先程からぼろぼろと涙を流していたキースが少し微笑んだ。
「わたし、ばりぃ専用……これで、ぇ、」
わたしだけのバリー。
言われて、その想いの強さを意外に思いつつ、嬉しくなった。
「そうだな、俺も、キース専用だ」
はにかむような表情をしているのが自分でも分かる。
そろそろ限界が近い。キースも、もう何度もイッていて、雄蕊からは時折プシッと透明の液体を吐き出すだけだ。
素質があるのか、それとも相性が良すぎたのか。
キースの身体は快感の波にうまく翻弄され切っているようだった。
「ぁあ゛、ん!ばりぃ、わたし、も、むりだ……ッ!」
「、俺も……もう、イきそうだ……ッ!!」
キースの手が、俺の手に重ねられる。それを握りしめ返して手を繋いだ。
一緒に、と言うキースの可愛らしいおねだりに応えるため、タイミングを見計らう。
胎内がきゅんきゅんと締め付けを強くするのに合わせ、最奥を狙ってノックするように腰を遣う。
「ああ、ばりぃ……イく、イクイク、ぃ、くぅ──ッああぁあ゛!!」
「……くぅ、キースッ」
絶頂と共に意識をトばしたキースを抱きかかえ、仰向けに寝転がる。
タフさが売りな所もあるキースが気絶するほどの快感とはどのようなものなのか。空恐ろしくなりながら、キースを抱きしめる。
「もう、ライバルでもただの同級生でもなくなっちまったなぁ。ま、眠れない日は俺が相手してやるよ」
キースが聞いていたら泣いてしまいそうな独り言を呟きながら、俺も睡魔に誘われるまま瞼を閉じた。

コメント