何度でも、愛していると言ってやる。

バリキスへのお題【君を愛するのに、根拠なんて無い/君を抱き締めたら、最期。/淡い、淡い、恋心。】
お題元さまはこちら↓
https://shindanmaker.com/287899

タイトルが偶然五七五ですね。
以前書かせていただいた『きらいって、言ってよ。』の続きのようなもの。設定としましては戦いを経て常識人になったばりーちゃん×ばりーちゃん限定でどえむなきーすちゃんと言ったところでしょうか……。いわゆる蛇足以外のなにものでもございません。いやもう本当に、前作の印象を壊したくない場合はお勧めいたしかねます。ちなみにですがR18ご注意。捏造ご注意。ちょっと♡喘ぎご注意。ぬる〜くいたしてるだけです。本当にぬるいです。最後の方は勢いで書いたのでもう何が何やら。また書き直させていただくかもしれません。ごめんね。


──────

自室に着いてから、ヤツの行動は早かった。
私をベッドに恭しいとすら思える手付きで寝かせたと思ったら、ベッドサイドから何やら液体の入ったボトルを取り出し、それを片手に私の上にひらりと跨る。そして徐ろに顔を近づけたところでぴたりと動きを止めた。
なぜここに来て止まる? 間近で見つめ合いながら、私は焦れったく、そう思った。
先程私はヤツに「犯してくれ」と酷く不格好に強請って見せた。ヤツは曲がりなりにもそれに応えるためにここまで来たはずだ。準備らしきものも済んでいるようだし、ここで止まる理由が判らない。
じっと、その一種の獣じみた、しかし確たる理性を以て律された瞳を見つめ返していると、ヤツはようやく言葉を発した。

「……今更かもしれねぇけど、ほんとうに良いのか……?」

流石は人間界で私にトドメを刺さなかったくらいの甘ちゃんだ。この期に及んでお伺いを立てているらしい。かつてのような苛烈さでさっさと私を犯してしまえばいいものを。
本当に今更だな。とは言わず、返事の代わりにヤツの襟元を引っ掴んで互いの口唇を合わせる。
それ以上のことはしてやるつもりもなかったし、この先どうするのかも何となくしか知らないため、自暴自棄気味に口唇を離す。が、ヤツの方から再び顔を寄せてきて、角度を変えてより深く口付けられる。口内に入り込んできた舌の、なんと熱いことか。呼吸すら奪われるような息苦しさに生理的な涙が浮かんだ。
なるほど、こうして私をじわりじわりと苦しめるのが狙いか。
戦いで得られる鮮烈な痛みも良いものだが、このように真綿で首を締めるような苦しみも悪くはないのかも知れない。
この苦しさを味わおうと決めた時、目尻に溜まっていた涙がこぼれ落ちた。丁度角度を変えようとしたらしかったヤツが、ハッとしたようにまた動きを止め、そして離れていく。
急に口唇を解放され、身を捩って咳き込む私を前に、ヤツは物凄くおろおろした声音であろうことか謝罪をしてきた。それも、そっと私の背をさすりながら。

「わ、悪い……! 俺、夢中で気づけなかった。すまねぇ……っ」

何を言ってやがる。あのまま口付けが続けば私を殺せていたかもしれないのに。
酸素不足でぼんやりした頭で、『何故』を繰り返す。その中で、ある一つの可能性に思い当たった。
ヤツは私に「好きだ」と言った。
過酷な戦いを経た筈なのに平和ボケしてしまったコイツは、もしかして今から『やさしい』性行為とやらをするつもりなのではないか。
──虫酸が走る。良い子ぶるのも大概にしろ。
ぶん殴ってやりたいが、だからといって今のヤツが私の切望する苦痛を返してくれるとは思えない。
だから私は言った。

「私がどうなろうと構わない。『好き』だったのではないのか、私のことが。ならば思うように抱け」

途端、きつく抱きしめてくるコイツ──『バリー』を抱きしめ返した時が、私という自我の最期なのだろう。

──────

こいつを、キースを愛するのに、もはや根拠など無い。
俺の手で壊してしまった、いとしいキース。
かつて活き活きと戦いを挑んできてくれていた可愛らしいキースは、今や俺に対するすべてを諦めて退廃的な雰囲気を纏う。そんなこいつも美しくて愛すべき存在であることに依然として変わりはない。先の発言で「好きだった」、と過去形を使われたのは今から身を以て否定させてもらうつもりだが。
キースが俺を諦めても、俺がキースを諦めない。絶対に。何があっても。
振り向いてくれとはもう言わない。だが、ただ在るがままのおまえを愛させてくれ。
そう想いを込めて、キースを抱きしめる。当然抱きしめ返しては来ないが、覚悟の上だ。
先程は想いが先行して口づけで失敗してしまった。急いては事を仕損じる、とは、人間界でパートナーに教わった言葉だ。
俺から与えられる痛苦に魅せられたとキースが言うのなら、今度は別の感覚や感情で、こいつを魅了してやればいいのではないか。そう考えた矢先に痛恨のミスだった。次こそは落ち着いて、キースの快感を拾い上げなければ。
種族は違うが、幸い同じ人型の魔物。それにキースは機械族には珍しく、血の通ったあたたかな身体がある。
着衣のままその腰から脇腹にかけて指でなぞってみれば、やはりというべきかキースは擽ったそうに身動ぎした。
それを見た俺はとても嬉しくなった。いま俺のすべてを否定している筈のキースが、俺の手に反応をしてくれる。調子づいた俺は、キースのウエストや衣服の下に隠されたへそをくすぐり、まあるい尻を撫で回した。そうして触れるたび、キースは耐えるように歯を噛み締めたり、身を捩ったりする。そんなキースの一挙手一投足が泣けそうなほど嬉しい。
そして、もう一度口づけを、と思ったところでキースの身体をまさぐっていた手をはたき落とされた。見れば、キースは怒りからか目に涙すら溜め、頬を真っ赤に染め上げて俺を気丈に睨みつけている。

「先程の言葉では足りなかったらしいな。手酷くしろと先刻告げたはずだが? 平和ボケした貴様では私を満足させることも出来んのか」

「……聞き捨てならねぇな。苦痛だけが快楽じゃねぇと今から証明してやるんだよ。おまえの身体でな」

「フン……どうだか」

生意気なところも可愛らしい。
さて、そろそろ……とキースの下履きに手を突っ込むと、一瞬目を見開いた後、視線を外されたのが判った。照れているのだと思うと愛おしさが募る。
そのままキースの中心に手を添える。同性だが、躊躇いはない。むしろ早く触れたかった。
その身長に見合った小ささの雄蕊を、親指と人差指で挟んで擦り上げる。
……反応しねぇな。依然柔らかいままのソコをふにふにといじりながら考える。こうなったらアレをやるか。

「ッ!? な、なにをしてやがる……?」

ぱくりと中心を口に含んだ俺を見下ろして、キースがひっくり返ったような声を上げる。舌の上でころころと転がせば、キースは必死になって俺の顔を押し退けようとしてきた。それでも頑として咥えたまま梃子でも動かない。すると諦めたのか脱力してベッドに身を預けたキースが言った。

「……全然気持ちよくない」

その言葉に俺はかなりショックを受けた。これでもダメなのかと、口を離しかけた折に、俺の歯というか牙の先端が、キースの中心を掠めてしまった。刹那。

「ふ、あ……ッ♡!♡?」

こんなに甘ったるいキースの声、初めて聴いたな、という感想がどこか冷静な脳内に浮かんで消えた。同時に怪我でもさせてしまってはいないかとヒヤヒヤではあったが。
それ以上にキースの声がダイレクトに俺の下腹部に響いた。もっとスローペースでじっくりと、と考えていたのに最初から申し訳程度しかなかった余裕が急激に無くなっていく。
ダメだ。キースの頑丈さはよーく知っているが、いくら無意識に煽られたって、勢いに任せて抱くなんてことはあってはならない。絶対に。
そんな俺の内心など露ほども知らないキースが、腰をこちらにこすりつけながら「もう一回……!」とねだってくる。

「……おまえ、ちんちん怪我したら痛いどころじゃねぇぞ」

「あぁ……! お前のその鋭い牙で傷つけられるなんて……想像しただけで達してしまいそうだ……!♡♡」

改めてキースのいろいろな何かを壊してしまったことを思い知らされ、頭を抱える。こうなったら、やはり責任とって娶らせてもらうしかないな。
まずはこの初夜を成功させねば。結局痛みからしか快感を得られていないらしいキースをどうやってふつうに気持ちよくさせるか。…………。
そこまで考えて、『ふつう』ってなんだ?という疑問が降って湧いた。そもそも俺の狙い自体がかなりの独り善がりなのではないか。ありのままのキースを愛するとか考えておきながら、俺の価値観に合わせさせようと考えている自分のエゴに腹が立つ。
徒な暴力は、もう振るわないと決めた。だが、キースが俺から齎される痛苦でしか感じることができないのなら、手段がない訳でもない。
キースと恋仲になったときのために色々と勉強していた資料の中にあったはずだ。SMという項目が。
縁がないと思って流し読みしただけだが、今思えばかつての俺たちのような関係が遠からずといったところではないだろうか。キースが望むのは惨めな痛みだ。キースの中のいわゆるマゾヒズム(という表現で合っているだろうか)の才能を無理やり開花させてしまったのだから、できる限りの、怪我をさせない範囲での痛みをキースに与えることが俺の今の責務であり権利だと言っても過言ではない。
そうと決まれば話は早い。キースは俺限定のドMという括りにいる。ならば俺がキース限定のSに戻れば良いのだ。

「キース、これからおまえは何も考えなくていい。俺のすることをただ受け入れてさえいれば」

「随分と大きく出たじゃないか」

ニヤニヤと口元に弧を描くキースの余裕を、まずは奪ってしまおうか。
先程のようにキースの口唇を自らの口唇で塞ぐ。本当ならば、キス中の呼吸の仕方を教えてやりたいのだが、ドMとうぶさを両立している奇跡のような存在であるキースに、あえて教えずに行く。
息苦しさから涙すら浮かべだすキースをかわいそうに思いながら、下履きをずり下ろしてその中心を自分だったら痛くて止めるだろうなという力加減で扱く。
ようやく控えめに存在を主張し始める雄蕊の先端を親指の腹でぐりぐりといじれば、背を弓なりにしならせてキースがくぐもった声を上げた。
そろそろ意識がトぶな、というところでキスを中断してみる。するとキースは激しく咳き込みながらぴゅっぴゅと可愛く吐精してくれた。よかった、ちゃんと感じてくれてたみてぇだ。でも、ここで終わってもキースは満足できないだろう。だから、俺はキースの中心を扱く手を止めない。先端を重点的にいじめればキースの声に泣きが入るが、止めない。

「ぁッ!もぅ、出た……! 、ゃめッ」

「出た、でもいいが、イッたって言う方が楽だろ?」

「なん、なんでもいい…… イッたから手、離せぇ……ッ!」

「気持ちよさそうだから止めるつもりはない。っと、もう少し強めのほうがいいか?」

小さなソコがつぶれてしまうのではないかと心配になるほど指に力を入れてみる。気の毒なくらいもみくちゃにされた雄蕊は、それでも健気に芯を保つ。

「ヒッ……!? やぁっあ!! 漏れちゃう…… 見るなァ!ぁ、イく、ィく、またぁあ、 あぁあああっ────!!」

大きくキースの体が跳ね、プシャアッと透明でさらさらした体液が雄蕊から溢れた。これが潮吹きというものか……!と感慨に浸っていると、ぐすぐすとキースが本格的に泣き出してしまった。内心おろおろになりつつも、ここで狼狽えてはいけないと咄嗟に言葉を探す。

「よしよし、じょうずにイけたな。いい子だ」

結局本心を述べただけに留まったが、濡れていない方の手でキースの頭を撫でてやると、その表情が蕩けた。涙の膜を張った硝子の目はとろりとして、口元はへにゃりと曖昧な笑みを浮かべて。荒い呼吸の中、「ばりぃい……♡」と舌っ足らずに名を呼ばれたとき、俺に得も言われぬ甘い衝撃が走った。背筋がぞくぞくっと痺れ、あまりの多幸感に呼吸すら忘れる。
あれ、もしかして俺、目覚めた……?
もともと加虐心は強いほうだと自覚してはいるし、だからこそ己を律しているつもりだったが、こちら方面でこの加虐心が活かされるとは。まぁ、キースが悦んでくれるのならそれでいいか。
普段の生活はそうはいかないが、ベッドの上でだけならキースが望むようにちょっと無理を強いるのも悪くない。……それと。

「やっと俺の名を呼んでくれたな。──何故だ?」

そうこぼすと、キースは首を横に振った。そして言う。

「わからない……痛くしてくれたから……?」

俺はいま余程納得のいっていない顔をしているのだろう。キースは潤んだ眼で俺をじっと見つめた。そして不本意な告白をするように眉間に皺を寄せ、且つものすごく照れくさそうに視線を彷徨わせながら言葉を続ける。

「……痛くても気持ちよくなれるのは、バリーだけだったから。痛みを齎してくれて、それが私の中で快感に切り替わるのなら、おまえがバリーであるという何よりの証拠にはならんか……?」

「……さっき苦痛だけが快楽じゃねぇと言ったが、前言撤回させてくれ。おまえが気持ちいいのなら痛みだろうがなんだろうがくれてやる。ただ前みたいにハードなのは今の俺には無理だ。少しソフトな方でやらせてもらう。愛するおまえの望みだからな、ちょっと痛苦し気持ちいいくらいを俺は目指す。それでおまえを満足させる」

「──最中に殴りつけてくれるのかっ? それとも、首を絞めてくれたり!?」

「だーからソフトなのって言ってんだろうが。それに……首は締めてねぇが似たようなことはさっきやったしよぉ」

頬を人差し指でぽりぽりとかく。自分がやらかしたことを思い出して顔に熱が集まってきた。するとキースがそれはもう嬉しげに言った。

「あぁ! あの口づけながら窒息寸前まで行くやつな、頭が真っ白になってなんか最高だったからまたやってくれ!」

「う~ん……」

キースが活き活きとしてくれるのは嬉しいが、何か複雑だ。それに俺とキースの中でソフトとハードの線引がいまいちされていない感じがするが、それはキースの反応を見ながら考えていくとして……。

「……じ、じゃあ、続けるぞ?」

コクリと頷いて見せるキース。つい先程までの積極性は何処へやら、おそらく羞恥から頬を染めて、身体に這わされた俺の手を目で追っているようだ。
いつも露出度が気になって仕方なかったキースのブルマを思い切ってずり下げれば、今度は見ていられないとでも言うように、キースはその体の割に大きな手で硝子の両眼を覆ってしまう。
あまりのいとおしさから苦笑すらこぼし、俺は再びキースの雄蕊に触れる。ふにゃりと萎えたままのソコをやわやわと揉み込みながら視線を上げると、キースが少しだけ腕を持ち上げて、こちらを見つめていた。そのなんとも物足りなさそうな、拗ねた子どものような表情が可愛くて可愛くて、俺は敢えて真剣な顔をつくって訊ねる。

「気持ちいいか?」

「……もっと痛くしてもいいんだぞ」

やや早口でそう告げると、キースはまた目元を隠した。
キースが見ていないのをいいことに、ニヤニヤが止まらない口元をそのままにして、今度はキースの大きく開いた脚の間に胡座をかく。そして先程からずっと所在無さげに放置されていたローションのボトルを手に取った。
とぷりともったりした音を立てて、自らの手のひらに液体を落とし、体温であたためていく。
すると、にちゃにちゃという粘ついた音に、キースが少し怯えた様子の声を上げた。

「な、なんだ……?」

「ローションだよ、そのまま挿れると痛ぇだろうからな」

「痛いだけなら別に大歓迎なんだが……」

「流血沙汰は駄目だ。さっきも言っただろ。ソフトに行くって」

まだ不満そうにむぅっと口唇をとがらせているキースを、伸び上がって片手で抱きしめながら言う。「下、見てみろ」と。
腕を持ち上げ素直に下を見たキースが、ヒッと息を呑んだ。

「そんなモノ……! 入る場所など無いっ」

「だから今から慣らすんだよ、おまえのココを。……それとも、止めとくか?」

後ろの窄まりを濡れた指先で撫でながらの俺の問いに、キースはびくりと身をかたくして少し沈黙した後、ふるふると首を横に振った。

「……ここまで来ておいて、今更怖気づくようなこと、あってたまるか」

そう言う割にはベッドに折って立てられた膝が笑っているが、俺はそれを指摘するような無粋さは持ち合わせていない。
小さく頷き、キースの後孔の存在を確かめるように、くりくりとそのふちを捏ねくり回した。非常に慎ましいソコは、とても俺を受け入れられるとは思えない。が、そもそもキースの種族を考えた際に『もしかしたら無いかもしれない』と覚悟さえしていた器官が存在してくれていたという事実に、俺は内心泣きながらガッツポーズをとっている。
そしてそんなことはおくびにも出さず、キースの後ろを慣らすための努力は惜しまない。
入口にローションを十分に馴染ませ、次は中指の第一関節を思い切って挿入する。キースが拒むように膝を閉じようとするが、俺の身体でそれはかなわない。
他人はおろか自分でさえ触れたことのない場所、生涯で一度も触れると思ったことすらなかったソコ。俺は今、あろうことか愛してやまない相手のそんな場所に、指先で触れている。その非現実感に頭がくらくらする。体中の血液が沸騰したようにカッと熱くなる。
胎内の浅い浅いところを内壁に沿ってくるりと撫で上げれば、反射的にまたキースは脚を閉じようとする。

「痛くねぇか……?」

「……だから痛い方が良いと言っているだろうが。今は……ただ変な感じだ」

「まだ余裕ありそうだな。もう少し進めるから力を緩めてくれ」

ふぅーっとキースが深く息を吐く。それと同時に指を締め付ける感覚が弱まった。
「いい子だ……」と思わず本音をこぼしつつ、俺は指をゆっくりと進めていく。が。
……狭い。狭すぎる。
これ、本当に俺のが入る日は来るのか……!?
少なくとも指四本は入らないと望み薄どころではないのだが。太さだけではない、長さもだ。俺のを全部キースの胎内に収めるとなると、この小さな胴体の半分以上を占めてしまうわけだが……平気……なわけないよな。
指を引き抜く。ひくっと震える愛おしい小さな体躯を抱きしめ、耳元で囁くように言う。

「やっぱり止めよう」

「は……?」

「これ以上の無理はさせられない」

「…………」

無言で殴り飛ばされた。完全に不意打ちだ。
その勢いのままベッドの上に倒れ込んだ俺の腹の上に陣取ると、キースはぽかんとしている俺をもう一度ぶん殴った。これは避けられる攻撃だったが、敢えて避けず顔で受ける。じんじんと頬に痛みが広がる。
……そりゃあキースも怒るよなぁ。せっかく覚悟を決めてここまで来たのに、それを真っ向からひっくり返されれば。

「貴様、意志薄弱過ぎるだろう!殴る蹴るができんのならばせめて私を酷く抱けと私は言った。それを貴様は曲がりなりにも承諾したはずだ。私の心身を気遣っているつもりかもしれんが、それが逆に最後に残った私のなけなしのプライドすら踏み躙っていると何故気付かんッ!?」

「き、キース……」

「『何も考えずに身を委ねる』、今の貴様相手に出来るはずもなかろう。覚悟も思い切りも何もかも足りないのだからな」

「俺はただ……」

ただ、なんだろう?ここに続く言葉を見つけられない。何を言っても薄っぺらく感じられて、俺は言葉に窮する。
そうこうしている間に、キースは俺のボトムスを下着ごとずりおろし、まだまだ熟れるには程遠い自身の後孔に、先程からずっとバキバキになったままの俺の中心をぴとりとあてがった。

「──!、ま」

待て、は間に合わなかった。たとえ間に合っていたとしても、キースは腰を落とすその動作を止めなかっただろう。
亀頭まで飲み込んだところで、キースは動きを一旦停止した。
キースの胎内に俺のが在るという事実だけで達してしまいそうなのを必死に我慢しながら、俯いたその端正な顔を覗き込むと、キースはいやな汗を滲ませながらはくはくと短い呼吸を繰り返しているのが分かった。

「はぁ、は、痛い……痛過ぎるぞ……!」

「だから止めよう、と……」

返事はない。ただキースは更に己の体重をかけるのを再開する。俺はといえば、浅くて狭い胎内の肉壁を無理矢理押し拡げる感触に酔いしれそうになるのを必死にこらえる。
めりめりと音が聞こえそうな感触だ。されるがままの俺の意識を叱咤しようにも、肝心の体が言うことを聞かない。キースのことを想えば止めさせるべきなのは明白なのに、このままキースとひとつになりたいという欲求が勝っている。
俺のを徐々に飲み込んでいくにつれ、キースの呼吸に甘い響きが加わるのが聴こえてくる。

「ん゛……♡ぐぅ、ううう……ッ♡♡」

「もしかして……気持ちいいのか、キース?」

「ぁ、ん……痛くて、くるしくて、……『最悪』だ♡♡……!」

キースの台詞には、もうとろけださんばかりの快楽が多分に含まれている。それに充てられた俺は、頭の中では駄目だと分かっているのに……。否、言い訳は止めだ。今の俺は以前の俺に酷似した渇望を覚えている。こいつを、キースをずたぼろにしたい。もうサドを演じる必要もない。思うままにキースを犯し尽くして、苦痛と快楽でぶっ壊して、身も心も俺だけのものにしてやりてぇ。

「────はは、良かったじゃねぇか。……ところでよぉ、もっと深くに行けたら、より最悪の事態に陥りそうじゃねぇか?」

「ふ、ぇ……もっと、ふかく……?」

オーバーヒートしている頭では咄嗟に理解できなかったらしい。その一瞬を俺は見逃さなかった。
キースの腰を両手でがっしりと掴んで、一気に引き下ろす。
明らかに超えてはいけない、超えるにしても相当経験を積まなければ辿り着けない場所をノックしてやれば、キースが無意識に詰めていた呼気を「かは……ッ!?」と吐き出した。
エロいなぁ、こんなの我慢しろって言う方がおかしいだろうよ。

「あ゛ッ!!?ま、まって……」

「すまねぇ……もう限界だわ」

最後に残った小さな良心が、謝罪を口にさせた。
後はもう、餓えた獣のように貪り尽くすだけだ。この行為では封印すると決めていた『弱所突き』も惜しげもなく使用する。
一度大きく腰を引き、キースの弱いところを一突きにすれば、キースが声も出せず大きく仰け反って中心から白濁を零した。
そのまま後ろへ倒れようとするので手を引いて無理矢理こちらに重心を移動させる。キースは初めての前立腺への刺激に驚愕した様子で、目を見開いて俺を見下ろしている。その意識の中に俺がいない(というか俺を見止める余裕がない)ことに気づき、俺は俺を見てほしい一心でキースを責め苛む。
滅茶苦茶に腰をぶつける時もあれば、弱いところを重点的にしつこく狙う時もあった。相変わらず狭く熱い胎内が、俺を拒む動きから、受け入れるように蠢き出すのにそう時間はかからなかった。
苦しみ、痛み、そして快感に翻弄されるキースは、気付けば最早腕のスプリングを保っていられないほどにとろとろになってしまっていた。

「も、むりぃ……♡♡むりらからぁ……♡」

「おまえが言ったんだぜ?『手酷く犯せ』ってよ」

「らって、こんな……きもちぃなんてきいてない……っ」

「普通なら多分痛くて耐えられねぇんだろうが、おまえがドMで頑丈なおかげだな」

「ちが……どえむじゃないぃ♡♡ばりーのことが、好きなだけ……!♡♡♡」

「────!好きでいてくれるのか。俺の、こと」

「じゃなかったら……、こんなこと、させない」

どろりと、キースの眼が仄暗い光を帯びた。気のせいだったのかと思うほど一瞬だったが、俺は見逃さない。
淡い恋心と言うにはあまりにも強烈で、濃厚で、それでいて真っ直ぐな想いをキースが俺に向けてくれている。その事実に気付き、俺は目頭が熱くなるのを自覚した。
キースが徐に俺の頬に触れる。

「……どうして、きさまが泣く……?」

「そうか……泣いているのか、俺は」

「ああ。まったく、泣きたいのはこちらの方だと言うに」

キースを抱き上げ、胎内から自身を引き抜く。抜かずに何度出したか分からない。限界まで押し拡げられたキースの後孔から、こぷりと俺の残滓がこぼれ落ちた。あれだけ無理させたのに、流血までは至らなかったことが不幸中の幸いだ。
キースを抱き竦めると、その指先が、俺の次々に溢れ出す雫を根気よく拭ってくれる。
どうしても口付けたくなって、口唇を寄せた。するとキースは仕方なさそうに硝子の眼を閉じて受け入れてくれる。ひとつだけ、啄むような口付けを贈れば、やはり少し不満げな顔をされる。首を傾げて見せれば、キースは言った。

「舌に牙を突き立ててくれると思ったのに……」

「だから流血は無しだって言っただろうが」

苦笑気味に言えば、キースがもぞもぞと身動ぎし、遠慮がちに俺の背にその腕を回してきた。
そして、ひそりと吐息混じりに呟かれた言葉に、俺はまた首を傾げる。

「いま、私は私。……だよな?」

「? おまえはおまえ、キースだぜ?」

「そうか……よかったぁ」

そう微笑んだキースは、これまで一度も見たことのない安らかな表情をしていた。
何となくだが、キースの心中を察する。

「俺が変われたように、物事は変化していくものらしい。……それに順応したからと言って、おまえという自我が消えるわけじゃない」

ハッとしたようにキースが身を強張らせる。その強張りをなんとか解そうと、俺は努めてやわらかくキースの背を撫で続けた。そのまま沈黙が続き、緊張も幾らか解れてきた頃、キースがぽつりと呟いた。

「私は……バリー、おまえを好きでいていいのかな」

「このさき一生片想いさせる気か?ドSかよ」

「おまえに言われたくないな」

「おまえがきらいって言っても食い下がるからその気でいろよ」

「ああ、わかったよ。バリーは私に惚れまくってる、そう肝に銘じておく」

「…………」

「か、軽く否定してくれてもいいんだぞ……?」

「ん?その通りすぎて否定する気は起きなかったぜ」



何度でも、愛していると言ってやる。

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