theory of relativity





「好きだ! バリー!」

「うるっせぇッ! 気持ちワリぃんだよさっきから!!」

「ハハッ!照れるんじゃな……オギャーーンッ!!」

脇腹にバリーのドルゾニスが炸裂して、あまりの痛みにふっ飛ばされた先の地面をのたうち回る。それでも諦めはしない。
これはきっと一目惚れ、というやつなのだろう。
やつに出逢うまでの私の世界はグレーアウトして、何もかも味気ないものだった。ぽとりと紙面に落とされたコバルトブルーのように、転校してきたやつが灰色の教室に足を踏み入れた瞬間、やつを中心に世界が色づき弾けるのが分かった。
灰色の世界に独り、これまたモノクロの私は虚勢を張って、まるで自信に満ち溢れているかのように振る舞っていた。こんな生き方だったから、 突然目の前に現れた鮮烈な存在感のバリーを受け入れるのに時間を要した。だから私はバリーを挑発した。私の乏しい交流方法にはそんなやり方くらいしかなかったからだ。
あの挑発は、私から青い転校生への決死のラブコールに等しかった。
そして一瞬で私の想い人という立場まで駆け登ったバリーからのあの答えを、私は”YES!!”だと受け取った。
熱烈な答えに私は喜び勇んで、バリーを校庭に誘ったのだ。
そこでやることはひとつ。殴り合いだ。
私の渾身の恋心を詰め込んだガンズ・ギニスを躱し、或いは叩き割り、バリーは確実に間合いを狭めてくる。それだけで私の鼓動は歓びに跳ねた。私も腕にドルギニスを纏わせ、バリーに駆け寄る。すらりと背の高いバリーに向かって走れど、だがなかなか近づけない。満面の笑みで近づいたのが良くなかったらしい。バリーは青褪めて飛び退いていた。そうか、そうだよな。戦いの最中に笑うのはマナー違反だったかもしれない。

「……ッ何だってんだよ!ニヤつきやがって」

「おまえとこうして戦うことができて嬉しいんだ!思わず笑いもする!」

バリーが「は?」と動きを止める。それを好機と見、私は腕のスプリングをフル活用しバリーめがけて跳んだ。
あともう少し……!というところで、バリーが私の顔面を殴り飛ばした。
ゴロゴロと地面を転がった私に歩み寄り、バリーがこちらを見下ろしてくる。その表情は逆光でうかがい知ることができない。痛みに蹲る私のすぐ横にしゃがみ込むと、バリーは言った。

「……テメェは戦うと笑うのか、たとえ劣勢でも」

心底不思議そうなかおをしていた。だが私も似たような表情をしているということは何となく察した。だって、あまりにも当たり前のことを訊いてくるものだから。

「相手がキサマだからだぞ? 一目見て分かったからな、『コイツは私より強い』、と! 今の私に勝てる魔物の子はここら一帯には居なかったからな」

退屈していたんだ。
そう告げると、バリーは舌打ちをして立ち上がると私を蹴り転がし、仰向けにさせた。軋む身体に小さく呻いたが、バリーは私の状態などどうでも良いのだろう、質問を続けた。

「じゃあずっと言ってた……す、好きってのは何なんだよ」

「そのままの意味だが」

バリーの真っ白い頬がほんのりと紅く染まった。
お、脈アリか?
……なんだ、つまらんな。
素でそう思った自分に少し驚く。あれ?恋心って、こういうものなのか……?
寝転がったまま自分の胸に手をのせて自問自答している私を、バリーがまた蹴り転がす。その痛みにときめく。ぞんざいに扱われるたびに、どうかこのときめきよ止まらずにいてくれと願ってしまう。これって恋、だよな?
格好つけてたかつての灰色の自分なんか忘れて、バリーの脚に縋り付いて強請る。私自身、一体バリーとどうなりたいのか、見失っている気もしていた。が、どうしようもないということも悟っていた。

「もっと! もっとだバリー! 大好きだ!!」

バリーの困惑顔にすら恋してしまう。
後戻りなんてもう、出来やしない。

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