140SS(鰤編)

貴方は一キルで『正直に申し上げます』をお題にして140文字SSを書いてください。

「正直に申し上げます」
「おう」
「私は貴方がきらいです」
「おう」
「あの…」
「ん?」
「きらいなんですよ?」
何を思ってこんな事言い出したのかは知らないが。
「そういう台詞はなぁ、そんな面で言うもんじゃねぇよ」
濡れた目尻に親指を押し付けてやると、俯いて洟をすすった。

貴方はバンキルで『だいたいそんなかんじ』をお題にして140文字SSを書いてください。

「陛下好き?」
「はい」
「私はどうでも良い?」
「いいえ」
「じゃー好き?」
「はい。同僚として。」
「はぁ?」
「陛下がこちらだとすると、貴女はこちらです」
陛下が右で、私が左。理解してやるのも面倒くさい。
「あー。ママも好きだけどパパも好きー、ね」
「だいたいそんな感じです」
「ふざけんな」

貴方は一キルで『あの日から一番遠い僕ら』をお題にして140文字SSを書いてください。

「お慕いしております」
この一言から始まった今の関係。
何の冗談かと思っていたのに絆され始めたのが随分前。
あの日鋒を交えたことが夢か幻だったようにすら思えてくる。
「アンタって案外可愛いよな」
そう言ってやれば、目を丸くして言葉を失う。その様子があの日と全く同じで、少し微笑ってしまった。

貴方はナク+キルで『言えるわけがない』をお題にして140文字SSを書いてください。
彼と二人でカフェオレを飲む。最近馴染んだこの一時は、毎日の密かな楽しみだ。
「どうだい、お味は?」
「美味しいです、とても」
いつものやり取り。
だが、今日こそは。
「どう、思う…? お、」
俺の事。
「お茶とかさ…?」
「良いですねぇ」
言える訳がない。啜ったカフェオレは何故か少しだけ苦かった。

貴方はナク+キルで『足して割って、ちょうど』をお題にして140文字SSを書いてください。

「俺がミルクで、アンタがコーヒー」
「急に何です?」
「ほら、俺ってクリーミーな男だろ」
「私がビターだとでも?」
「うん」
「納得いきません」
「というか真面目過ぎる。俺たちを足して割ったらちょうど良い奴が出来そうだ」
「カフェオレのようですね、あなたのお好きな」
「二杯できるから一緒に飲めるな」

貴方はバンキルで『いつかの夢の続き』をお題にして140文字SSを書いてください。

またこの夢だ。真っ暗な場所で小さな子供が泣いている。
私は妙に閉塞感のあるその空間で、声を殺して涙を流すその子を眺めるだけ。
だが今日は、子供がこちらを見上げてきた。濡れた瞳はいけ好かないアイツによく似ている気がした。
ぎこちなく腕を伸ばし、抱擁すると、アイツの控えめな嗚咽が止んだ。

貴方は一キルで『夢だったらよかったのに』をお題にして140文字SSを書いてください。

頭を撫でられる。誰にかは分からない。何か大切な事を忘れているような気がするが、今はそれでも良いような気がした。
心地良い手に擦り寄れば「ふふっ」という笑い声。
妙にクリアなそれに瞼を開く。そこには橙色の悪戯っぽい瞳と「よく眠れたか?」という台詞。
… あぁ、夢だったらよかったのに。

貴方は浦キルで『どうでもいいよ、そんなこと』をお題にして140文字SSを書いてください。

「どうして…」
「可笑しな事を聞くんスね。
アナタはアタシの実験動物っスよ?」
「それならば解剖なり何なりすればよいでしょう…!」
蘇生から治療まで施され、自刃すらも許されないこの状況は一体何だと言うのか。
「殺しなさい」
「アナタの誇りだとか矜恃だとか、正直どうでもいいんスよ、そんな事」

貴方は浦キルで『お気に召すまま』をお題にして140文字SSを書いてください。

「殺せ、とアナタはおっしゃいました。喜んでください、願いが叶いますよ。」
視界が滲む。
にこりと笑う彼を、直視できなくなる。用済みなら、一息に殺してくれ。そんな笑みを向けられたら我儘を言いたくなってしまう。
「さぁ、どんな殺され方がお好みで?」
貴方の温度を感じながら死にたい、なんて。

貴方は一キルで『誰も欲しくない』をお題にして140文字SSを書いてください。

只管に涙を零し続ける彼をどうしてやることもできない。生き残ってしまった、という事実は彼にとっては死よりもつらい現実で、全てを終わらせた自分が何を言っても意味がない事は痛い程分かっている。だが、誰も欲しくない、とすべてを拒絶して泣く彼を放って置くことも出来ず、ただ側にいる。

貴方はバンキルで『残された時間』をお題にして140文字SSを書いてください。

うとうとと微睡む。全てがふわりと幸福で、思考にも靄がかかり何も考えずに済むし、手を伸ばせば自分以外の体温に触れられる。
「…天国みたい」不意の言葉に隣からは「天国ならこの身体の痛みは無い筈です」と大真面目な返答。
意味の無い問答をうつらうつらと繰り返す、眠りまでの残された時間。

貴方はナク+キルで『結論はとうに出ている』をお題にして140文字SSを書いてください。

どう思われているのか。近頃そればかり気にかかる。
目の前の男を見遣ると、向こうも同じタイミングでこちらを見た。
「「あの…」」
…非常に気まずい。頬に血が上るのが感覚で分かる。今の俺はそう、彼と同じ表情をしているのだろう。そこではたと気づく。結論はとうに出ているのかも知れない、と。

貴方は一キルで『唯一の』をお題にして140文字SSを書いてください。

夢中で読んでいた資料を取り上げられ、背後から抱き竦められた。唐突な理不尽の犯人についと視線を送る。
「私の唯一の愉しみを奪わないでいただきたい」
「なに寂しい事言ってんだよ」
興味半分、あきれ半分に文書を捲る手を掴み、振り向いて頬に口付けてやる。ぱちくりと瞬く横顔は年相応の幼さだった。

貴方は浦キルで『笑ってくれる?』をお題にして140文字SSを書いてください。

外は危ないからと優しく仕舞い込んで。死んでしまわないように誠心誠意お世話をして。希望を失わないようにと愛を囁いて。寂しくないように熱を分け与えて。それなのに、彼は己の心を消していく。抜け殻の様な彼に縋り付いても、その表情は変わらない。どうすれば、アナタはもう一度笑ってくれますか?

貴方は陛キルで『わかりやすいけれど、わかりにくい』をお題にして140文字SSを書いてください。

色眼鏡の向こうの輝く瞳。薄く色付いた頬。奴が犬だったらその尾を千切れんばかりに振っていることだろう。なんと分かり易い男だ。しかし解せないのは、今が任務中の無謀を咎められている最中だという事だ。なぜ奴はこの折に恍惚としているのだろうか。思わず頭を振ると、奴がほうっと息をついた。

貴方はバンキルで『ずっとそばにいて』をお題にして140文字SSを書いてください。

深夜。隣にあるはずの熱に手を伸ばす。が、そこにあるのは冷めたシーツだけ。薄すらと目を開くとそこはもぬけの殻。ずっとそばにいて、なんて言える間柄でない事は承知の上だが、せめて共に朝を迎えるのが礼儀というものだろう。「覚えときなさいよ…」寝言のように呟いて、もう一度目を閉じた。

貴方はナク+キルで『いつもの癖』をお題にして140文字SSを書いてください。

とぷり、とミルクを加えると、透き通った橙はふわりと白く濁る。「わ、悪い。いつもの癖で」ストレート好きの彼が、折角淹れた紅茶を白に染められていい気はしないだろう。そう思ったが、彼は席を立ちミルクソーサーを持って戻って来ると「偶にはいいですね」と言って紅茶に白を注いだ。

貴方は一キルで『三時の雨宿り』をお題にして140文字SSを書いてください。

止まねーなぁ。そう呟いた彼の横顔をそっと見る。勢いよく拭いた髪がふさふさと逆立ち、和毛のようで非常に愛らしい。突然の訪問に驚きはしたが、今はこの偶然に感謝すらしている。彼の気まぐれに巻き込まれるこの幸福なひとときが、もう少しだけ続きますようにと、午後の雨に祈った。

貴方は一キルで『大人しく降参して』をお題にして140文字SSを書いてください。

「大人しく降参しろ」と淡い茶の目が語る。両手を壁についた簡易な檻に捕らえられつつも考える。こんな幼気な拘束で彼がこちらの逃げ道を奪ってしまえるのは、ほかでもない私自身の心が原因なのだろうと。彼がこちらに身を寄せた。私に唯一残された自尊心が警告する。この温度に絆されてはいけない。

貴方はバンキルで『出来るなら苦労はしない』をお題にして140文字SSを書いてください。

「そこは素直に「好き」だろ」
「…別に、好きって言う程でもないし」そう憮然と答えれば、ぎょっとしたようにこちらを見られる。
「この期に及んで!?」
盛大な溜息をつかれた。
「…じゃあもうキスでもしてやればいいじゃねぇか。お前の面倒くさい思い、一発で伝わるぜ」
「それが出来たら苦労しないの」

貴方は一キルで『ゼロ距離告白』をお題にして140文字SSを書いてください。

突然呼び出しておいて「後ろを向け!」は無いと思う。しかし何を企んでいるのかという疑念と同時に、好奇心まで頭を擡げてしまった。仕方なく指示通りにすると、沈黙の後に背に温かな何かがとん、と触れる。どうやら彼の背中であるようだった。「こ、これは俺の独り言だけど、聞いててくれてもいいぜ」

貴方は一キルで『頬に爪を立てる』をお題にして140文字SSを書いてください。

ぎゅむ。奴の指が俺の頬に押し当てられる。爪が食い込んで結構痛い。抗議の声を上げようとしてあることに気づく。今、奴と自分の間には、あの無粋な布切れが存在していないのだ。ひんやりとした無防備な指先が自分の頬に押し当てられている。もう少しだけ好きにさせてやるかと、一つ溜息を落とした。

貴方はナク+キルで『僕は一生、恋をしない。』をお題にして140文字SSを書いてください。

「これは恋ではないのです」アンタが震えた声でそう言うから。どれだけ共に過ごそうとも、互い求めて身を寄せ合おうとも、俺には恋は出来ないらしい。「恋でなきゃ、これは一体何なんだい」そう訊ねれば「……愛、ではないでしょうか」なんてさらっと言いやがる。もっと早くに聞いておけば良かった。

貴方は浦キルで『お腹いっぱい君をください』をお題にして140文字SSを書いてください。

「あまり美味しそうに見えませんねぇ」
炬燵に頬杖をついて誰ともなく呟く。
「口にしてみなければ、実際のところは分からないと思いますよ」
剥いていた蜜柑を口に放り込まれる。
「ん、甘い」
「ね?」
「いえ、アナタの事を言ったんスよ」
はい?と小首を傾げる彼を押し倒す。いざ、実食。
「いただきます」

貴方はナク+キルで『若いときには無茶をしとけ』をお題にして140文字SSを書いてください。

ぼんやりと見つめる先には、安心しきってうたた寝を披露してくれる彼。「…俺ももう少し若けりゃなぁ」彼の無防備な唇を、未熟さに任せて奪うなり出来たのに。「貴方は十分にお若い」ぱちりと目を開いて、彼がそう言った。こちらの真意を見透かすようなその瞳に、吸い寄せられる様に距離を詰めた。

貴方はナク+キルで『もう一度、恋をしよう』をお題にして140文字SSを書いてください。

ここは何処、私は誰?なんてステレオタイプな台詞だろう。何とか生き延び、彼がいるであろう常夜の砂漠へと赴いた。そこにいたのは、重傷を負いすべてを喪った彼だった。助け起こせば冒頭の台詞。次いでに「貴方は?」と問われる。こんな時、何て答えるのが正解だろう。さあ、もう一度、恋をしようか。
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お題元様はこちらです。
https://shindanmaker.com/375517

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