お題:(そんな不意打ち、ずるくないですか)










ドアの向こうから、何やら大人数が騒ぐ声が聞こえてくる。
時折何かが壊れるような音や爆発音まで。まったく、私闘は禁じられているというのに。
「最近の若者は、などと思ってしまうというのは、私ももう若くない証拠でしょうか」
『外の騒ぎの事ですか。』
彼はティーカップを置くと、ゆったりと口を開いた。外の騒音など気にも留めていないような余裕そうな態度に、居た堪れなくなる。
「えぇ、まぁ」
『まだまだですよ。あれを微笑ましく思えるようになってからが本番です』
「…貴方は変わりませんねぇ」
柔らかく笑い、こちらが無意識に望んでいる言葉を与えてくれる。それが以前と少しの変わりもなく思えて、羨ましく感じるのは仕方のないことではないだろうか。
『私からしてみれば、貴方もあの頃と何の変わりもありませんがね』
そう言うと、恭しくこちらの手の甲に口づけをひとつ落とす。
その瞬間、頬の辺りが急激に熱くなるのを感じた。
『ほら、愛らしい若人のままだ』
精一杯の批難を込めて睨みつける。あぁ、でもきっと迫力なんて無いのだろう。彼は軽く笑ってこちらの尖った視線を易々と受けとめている。
「本当に、貴方は変わらない」
『それは嬉しいですね』
「狡い大人のままです。いえ、あの頃よりもっと酷いかも。こんな壮年を捕まえて」
『相変わらず可愛い事を仰る』
掴めない会話の尻尾に、軽い苛立ちと諦めを覚えて溜息をひとつ。
『溜息とは、何かお気に召しませんでしたか』
「…全てです。貴方の態度も言葉も」
柄にも無く不貞腐れている自覚はある。これでは彼の思うつぼだ、とも。
『これでは足りないと、そういう事ですか』
都合の良い勝手な解釈だと切り捨てようと思った。
しかし、微笑ましいものを見るような目に耐えきれず、視線を下に向ける。
手を握られているので逃げる事も叶わない。否、逃げる事を望んでいないのかもしれなかった。
布一枚を隔てて伝わる彼の体温が、私の自由を奪う。
「…狡い方ですね」
『貴方も同じですよ。あの頃と変わらないようでいて、年相応の狡さも会得している。そこも可愛らしいのですが』
こちらの考えを見透かすやさしい目に視線を絡め取られる。
全てを彼のせいにして、逃げるという選択肢を放棄した私は、狡い大人であることに違いなかった。


ロバキルでお題。
ロバキルへのお題は『(そんな不意打ち、ずるくないですか)』です。
お題元様はこちらです。
https://shindanmaker.com/392860

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