お題:そんな貴方が好きだった。/君が与えてくれるなら、これも愛なのだろう。/角砂糖一個分の甘さ

浦+キルへのお題【そんな貴方が好きだった。/君が与えてくれるなら、これも愛なのだろう。/角砂糖一個分の甘さ】
https://shindanmaker.com/287899
お題元さまはこちらです↑

またしても素敵なお題が出てくれました。なんとなく『お題:なんだ、答えはここにあった』の続きかもですが、お読みいただいていてもそうでなくても、どちらにせよ意味不明な文であることには違いないと思われます。
そして最初の一行が書きたかっただけだろ感がすごいですが、愛と萌はいつもどおり詰めております。
なんかこう、ごめんなさいm(_ _)mという感じです。
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私は生きる屍である。生前の名は何度訊ねても教えてはもらえない。
私の身体の彼方此方には醜い傷跡がある。特に肩から伸びた傷は我ながら酷い。どうやらこの傷が私の死を決定づけたものらしく、常にじくじくと痛む。身動ぐたびに引き攣り悲鳴を上げるこのような身体に恥じ入る私に、あの方は言うのだ。

「アタシだけはアナタのこと、愛してあげられます」

ですから安心して下さいな。
そう飄々と言いながら、私の身体を撫でさすり、薬を塗り込んでくれる。あくまでも私は骸であるから、その行為は無意味だと知りながら。
以前の私がどうだったかは知る由もないが、今の私にはあの方の存在がすべてで、あの方が触れてくれるだけで自分はなんてしあわせ者なのだろうと思う。たとえあの方が目的を隠すように私の身体に手を這わそうとも。
そうだ、傷に触れるのは何も擬似的な治療を行う時だけではない。あの方は時折、私の件の傷跡に人差し指をつうっと添わせる時がある。傷の上を幾度も幾度も往復して、思いついたように爪を立てる。突然の激しい痛みに身を強張らせる私を見て、あの方は奇麗に微笑む。

「生命がついえても、反応してしまうんスね」

ふふっと無邪気に笑いさえするあの方の深遠な考えは私には想像すらできない。あの方の言うとおり自分の意志に反して現れる”反応”に、ただ絶望するだけだ。
謝罪を繰り返す私の悍ましい身体を撫でながら、あの方は言う。

「かわいそうに」

と。ずくりずくりと繰り返し痛む身体に苛まれながら、揺らぐ意識の中に響くはあの方の甘い甘い声。渋味の強い紅茶に落とされる一粒の角砂糖のようだ、と私の知らない私がぼんやりと考える。この揺らぎの中にいつも現れるその”私”の存在に思わず身震いすると、あの方はすべてを見透かす瞳でこちらを覗き込んでくる。何故かこの動揺を悟られてはいけない気がする私は、浅ましくも目を逸らしてしまう。

「”戻って”も、何もいいことはないんスよ?」

戻る、とはどういう意味なのだろう。
記憶を持たぬ私には、あの方の言動はいつも難解に感じられる。目的もわからないまま繰り返されるこの行為も、私のような出来損ないを飼うあの方の真意も。何もかも難しい。
そのように考えている間も、私を苛む感覚は強まるばかりだ。私の中の私が、これ以上は赦されないと嘆く。あの方が与えてくれるものなら、何でも受け止めたい、受け入れたいと望んでいるのは紛れもなく私自身の筈なのに。
あの方が触れた箇所が熱を持つ。痛みだけではない感覚が確かにあって、それがもうひとりの私には受け入れ難いらしい。なんて愚かなのだろうか。あの方が齎す感覚に、感情に、身を任せてしまえばいいものを。
私の中の私が叫ぶ。「これは愛などではない」と。
ざわりと、胸の奥がさざめくような音を立てた。
私は、この行為中初めて謝罪以外の言葉を口にした。

「あい、とはなんのことですか」

あの方はきょとりと目を丸くして私を見下ろした。

「今アタシとアナタの間にあるものですよ」

そう当たり前のことのように言われ、私は自分の無知を恥じた。あの方が言うなら、この痛みも、熱も、羞恥も、恐怖も、愛というものなのだろう。私の中から必死に否定する声が聴こえる気がするが、そのようなものに誑かされる筈もない。
あの方は非常に聡明なひとだ。あの方が言うことは絶対だ。だから、何を疑うことがあろうか。
観察するようなある種の冷ややかさをもって私の痴態を眺めながら、あの方はその口元にうつくしく歪な弧を描く。
そんなあの方が好きだ。好き、という感情が何かも判らぬままに、熱に浮かされた私の口唇から、想いが溢れた。
私の譫言を聞いたあの方の瞳が大きく見開かれる。私を撫でる手が、止まった。

「あーあ。残念ですが、これまでのようッスね」

せめて苦しくも痛くもない方法で処分してあげますね。
あの方の言っていることの意味は判らない筈なのに、私は何故だかとても悲しくなって、でも縋り付く勇気も持てず。私の視界は突如として暗転する。
最期に甘やかな声が耳に届いた。

「──それでは、おやすみなさい。キルゲさん」

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