お題:君の「大丈夫」が、大嫌い





バンキルへのお題は『君の「大丈夫」が、大嫌い』です。





華奢な顎に指を滑らせる。そのまま首筋をなぞると、待ちきれないといったようにごくりと喉を鳴らした。
「かわいいこ」
今日の相手は入団して日が浅い聖兵。繊細な少年の線の細さを残した容姿に目を惹かれた。
軽く声をかければ喜び勇んでついて来る単純さが癪に障ったが、目的のために笑顔で自室に連れ込んだ。
まだ薄い胸板に掌を這わせつつ時を待つ。
口付けようと乗り出してくる体をいなしながら、扉に目を向ける。
すると。規則正しい靴音が近づいてくるのが聴こえた。
扉の前でその音は止み、代わりに毅然としたノックの音が響く。
目前の聖兵が気まずそうにこちらを見る。
「どうぞ」
構わず返事をすると控えめな音を立てて扉が開いた。
その瞬間を見計らって少年に口付ける。少し暴れたが口を割り開いてしまえばなすがままだ。
ちらりと目線を先程呼び入れた同僚に向ければ、棒立ちの彼と目が合う。
表情は読み取れない。少しばかり浮足立つ心を隠して、口付けに没頭するふりをする。
男ははっとしたように背筋を正し、「失礼しました」と律儀に声をかけて持っていた紙束をそのままに退出を試みた。行かせるものかと、寝台に立てかけておいたカトラスに手を伸ばす。
目にもとまらぬ速さでもって、口付けで惚けていた聖兵を両断する。
気味の悪い水音とともに斃れる少年を尻目に、足を止めてこちらを振り向いた男に声をかける。
「用があって来たんでしょ?」
そう差し向けたのは自分だ。この時間、この場所に来るようにと。
男は一瞬の逡巡の後、部屋を横断してこちらにやって来た。
ここまで近づくと、色眼鏡の向こうの表情も読み取れるようになる。
眉間には忌々しげに深い溝を刻み、隠そうともしていない嫌悪の色をその瞳に塗り込めたまま、紙束をこちらに寄越す。
「どうだった?」
受け取りながら訊ねれば、小首を傾げられた。
そして、濃い血のにおいにあてられたのか白手袋を嵌めた手で口元を覆いながら、「…感心しませんね」とだけ答える。
そういう事を聞いているのではない。こちらの意図を敢えて汲もうとしない相手に苛立ちが募る。
発作的に相手の胸ぐらを掴んで引き寄せた。
「どう思ったかって聞いてんの」
「どうとも。」
「部屋に男連れ込んで殺してんのよ。アンタが来る時を見計らって」
「大丈夫ですよ。今回も見なかった事にしておきましょう。」
至極冷静なその答えに苛立ち、思い切り突き飛ばす。こいつのこういう所が大嫌いだ。
溜息をつきながら襟元を正している男に、今の気持ちをそのまま言葉にしてぶつけると、困ったように笑って肩を竦められた。
「もういいわ。行って」
血塗れのベッドに身を投げ出して言葉を放る。ぺこりと一礼して去っていく男の背を睨みつけていると、ドアノブに手をかけた彼が振り向かずに呟いた。
「…私闘は禁じられておりますので」
そのまま部屋をあとにする。彼の言葉を噛み砕き、飲み込むと、じわりと笑みが浮かんだ。
「ほんと、可愛くないやつ」
扉に向かって言えば、一瞬の後あの靴音が遠ざかっていくのが聞こえ、今度こそ腹を抱えて笑った。




嫉妬しないわけではないんだよーなキルゲさん可愛い可愛い。
この二人って理不尽な部下殺しが共通しているなぁと思ったらうっかりハマってしまいました。
お題元はこちら様です。
https://shindanmaker.com/392860

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