お題:破られた不可侵条約

ナク+キルへのお題は『破られた不可侵条約』です。
お題元様はこちらです。https://shindanmaker.com/392860

R18ご注意。

──────

「匿ってください……っ」

久々の暇を弄び、甘いカフェ・オ・レでも淹れようかなどと考えていたら、部屋に飛び込んできた同僚にそう言われた。
いくらなんでも急すぎて意味が分からず、取り敢えず扉に鍵をかけて目を丸くしながら理由を問う。

「背後から何かを嗅がされてしまいまして…一人は始末したのですが」

何たる不覚。そう言って肩を落とすキルゲを何とも言えない表情で見つめる。

「そうか、アンタも意外と人気だもんねぇ」
「はい?」

なんにも分かっていなさそうな顔で首を傾げられる。
それにしても、お互いに見張ってるから普通はこんな事起きないはずなのだが。なまじ本人に自覚が無いから隙を突こうという不埒な輩が現れるのかもしれない。

「ところで、身体におかしな所は無いかい?」
「それが、先程からなんと言うか…動悸がするのです。熱でも出ているような感じもしますし」
「……やっぱりな」

明らかにアレな薬品を嗅がされている。

「医務室に行くべきでしょうか」
「いや!……それはやめておいた方がいいんじゃないの」
「何故です」

媚薬のせいだから、なんて言えない。が、この状態のまま彼を外に出すことは躊躇われる。今頃、彼に薬品を嗅がせた連中が探し回っているはずだ。仔羊を狼共の前に差し出すような真似は出来ない。

「え゛っと…………医務室とまで行かなくても、ここで休んでいきゃ楽になるからさ!」

何を言っているのだろうか自分は。これでは彼に薬を盛った連中と同類ではないか。
だが、自分はキルゲをどうこうしようなどという不純な思いは抱いていない、筈だ。というかそう思わないようにしてきた。今更その決心を覆すのは心苦しいものがある。
そもそも、彼は自分にとってそういう対象ではないのだ。もっと大切な何か、と言えばいいのだろうか。
彼は自分のことを仲間の一人だと思ってくれている。触れようと思うことは彼のその信頼を裏切ることになってしまう。
行為だけなら、今彼を狙っている連中のように無理矢理行うことだって可能なのだ。彼の精神はその能力同様、同族に対してやけに無防備で、陛下自ら選別した騎士団には尚更警戒心が薄い。そんな彼を手籠めにするようなことはしたくない。してはいけない。
決心を新たに彼に向き直る。が、その決心はすぐに揺らぐこととなった。

「ん……なんだか、あついですねぇ」

いつもならきっちりと閉められている詰襟が開いている。とは言え鎖骨は見えない程度だが。

「ッ!」
「!! 大丈夫ですかっ?」

情けない。鼻血なんて何十年ぶりだろうか。
慌てて顔の下半分を片手で隠す。間に合わなかった分が、白い生地をじわりと赤く染めていく。
わたわたと純白のハンカチでやさしく拭ってくれる今この瞬間にも、普段見ることのない血色の薄い淡い肌が見え隠れしていて視線が釘付けになる。あぁやっぱりきめ細かいなぁ、見ただけで判る、すべすべだ……!
じゃなくて。

「お、俺はへーきだからさ。それよりあんたの方が心配だぜ」
「しかし……」
「いいのいいの!立ってるのも辛いだろ、ソファに横になってな」

軽くかぶりを振って熱を散らし、洗面所に行って濡れタオルを作る。その間もぼたぼたっと流水上に赤い花を咲かせてしまい苦笑する。貸してもらったハンカチで鼻を押さえながらそそくさとリビングに戻ると、言われた通りにぐったりとソファに横たわるキルゲに近寄る。
先程よりクスリが回ってしまったのか、頬は上気しこちらを見上げる碧い瞳は潤んでとろけだしそうだ。呼吸も浅く早い。
据え膳食わぬはなんとやら、と頭をよぎったが濡れタオルを痛い程握りしめて堪える。取り敢えずしっとりと汗ばんだ彼の額にタオルを載せた。するとキルゲはぱちりと目を瞠り勢いよく身を起こした。
一体全体どうしたんだ、とはがれ落ちたタオルをキャッチしつつ動向を見守る。キルゲは俺のその動作を一瞬申し訳なさそうに見た後、意を決したように立ち上がった。

「おいおい、今は安静にしといた方が……」

いいんじゃねぇの、と続けるはずだった俺の言葉は途中で途切れた。キルゲが滅却十字を煌めかせ、霊子兵装を形作ったからだ。体調が万全ではないためか時折ノイズが入ったようにぼやける軍刀を握り、彼は言う。

「御迷惑をお掛け致しました。……これから付近の聖兵を手当たり次第に斬ってきます」
「えぇ……そりゃまたどうしてそんな結論に……?」
「毒を用いるのなら、対となる解毒剤も持っていて然るべし。……ふふ、私に毒を盛るとは、いい度胸ですねぇ……!」

いやいや、なんか熱にうかされて妙なテンションになっちまってるけど、あんた今仔羊だぜ?狼の群れの中に自ら出向いちゃ駄目なときだって!足元ふらついてるしその軍刀だっていつ雲散霧消するか判らねぇし。
色々と言いたいことは有ったが、口をついて出た言葉は、

「なぁ……その、下半身つらくねえか……?」

だった。俺自身何言ってんだっていう自覚は有るが、気になるというか心配になったのはそこだった。媚薬が体に回りきっているのなら男だったらソコがつらくなるんじゃないだろうか、と。
キルゲの手から軍刀が滑り落ち、乾いた音が部屋に響いた。ギギ……と錆びついたようなぎこちない動作で振り返るキルゲと目が合った瞬間、ただでさえ赤かった彼の顔が更に染まった。その瞬間、俺は確かに『ぼふんっ』という音を聞いた。
キルゲはくしゃりと眉根を寄せて、いつも以上に泣きそうな表情になった。そしてその場に崩れ落ちるように座り込むと、顔を両手で覆って物凄く小さな声で、

「ころしてください……っ」

と言った。
彼が性的な事柄を殊の外厭っているのは知っている。戦場に於いても兵達の略奪行為は黙認するものの、強姦輪姦の類はしている側もされている側も容赦無く始末するのを見たことがあった。それはもう視界に入った瞬間、しかもノーモーションで神聖滅矢を撃ち出していた。理由はなんとなく察しがついている。あくまで彼の言葉の端々から推測しただけだが、要は陛下率いる星十字騎士団の威信を穢したくないのだろう。そしてその信念は、キルゲ本人にも適用されるらしい。ある意味不健全な気もするが、彼がそう心に決めているのなら仕方がない事だ。
こういった事情を知っているのもあって、俺は彼を見守ることに努めていた部分もある。しかし、否だからこそ、今はただキルゲの不安を払拭してやりたかった。
彼の矜持は、騎士団の威信は、こんな事では穢れたりしないのだと、伝えたかった。
キルゲの背後に回り、彼と同じように座り込む。耳まで真っ赤だった筈だが、恐る恐る振り返った彼の顔は今は青褪めている。この期に及んでも熱を持つ自分の体に絶望してのことだろう。あぁこりゃ重症だな、と心の内で独りごちる。

「落ち着け……って言っても無理な話か。あぁ、そんなに怯えなくたっていい。俺はただ、あんたに安心して体調を整えてもらいたいだけだ」

だから大丈夫、と極力落ち着き払った声で語りかける。緊張しまくってるのは俺も同じだが、”勘”が当たっていればキルゲの不安は俺の比ではないだろう。

「俺のとこに態々来てくれたってことは、ある程度信じてもらえてるものとして話すぜ。その類のクスリは一回ヌくか何かしねぇと苦しいままだ。だが、もしあんたが嫌だって言うんなら俺は文字通り何もしない」

ひゅっとキルゲが息を呑む音が聴こえた。

「ふつつかもの、ですが……よろしくおねがいいたします」
「っ!!?」

絶対正しい意味わかって言ってねぇけど、それでもキルゲの台詞にぐっと来てしまった。
とにかく落ち着かねばと深く息を吸って、言葉を紡ぐ。

「まずは、前を寛げようか」
「はぃ……」

消え入りそうな声でキルゲが返事をしてくれる。
ジャケットの裾をぺろんと捲り、かちゃかちゃと金属音をたててベルトをはずして、ジッパーをゆっくりと下ろす。じりじりとした緊張感が部屋を満たしている。
自信なさげにこちらを振り向いてくるキルゲが、なんというか、愛しい。

「よし、次は下着だ。自分のペースで良いから下ろそう」

こくりと頷いてキルゲが下着に指をかける。途中膝立ちになりつつ、するすると下ろされる黒い下着に、また鼻血が少しぶり返した。気付かれたら要らぬ不安を煽るだけだと慌てて鼻を拭う。
こっそり覗き込むと、予想していたよりも色素の薄い彼の雄芯が、ふるりと外気に震えていた。
しまった。同じ男なのに嫌悪感が全く湧かねぇ……。むしろ可愛いとすら思える。改めてやばいぜ、俺。

「えらいぞ、今までよく我慢したな」

思わず子ども相手みたいな甘ったるい声になってしまった。
んん、と咳払いして誤魔化して、今度はキルゲの背後から腕を伸ばして彼の手をそおっと掴んだ。びくっと跳ねる体をやさしく抱きしめる形になる。そして了承を得てから白手袋を脱がす。

「つ、つぎは……どうすればよいのですか……?」

やはりと言うべきか、俺の勘は当たっていたようだ。
キルゲに、自慰の経験はない。らしい。
自分の中心に触れる、という考えがここに至っても出てこないのが証拠というか何と言うか、だ。
本当にコレを伝えるのが俺でいいのか自信が無くなる。良いのこれ、陛下とかが夜伽で手とり足とり教えてあげた方が良いんじゃねぇのか……?なんて考えが浮かんでは消えていく。
それを打ち消すようにかぶりを振って、キルゲの手を彼の半勃ちの中心へと誘導する。
じれったい程にゆっくりと触れさせたが、キルゲは小さく悲鳴を上げた。

「ひっ……!あ、っ」
「だいじょうぶ、そのままそぉーっと触れるんだ」
「むり、……無理です」

首を横に振っていやいやをするキルゲが可愛くて、思わずうなじにキスをしそうになるのを必死に堪える。

「どうしても、か?」
「はぃ……ごめ、なさい……」
「じゃあ俺が触っちまうけど、いいのか?」
「え、あ、貴方を穢すようなこと、させられません……!」
「別に穢れねぇって」

むしろキルゲを穢したとかで俺が陛下に処刑されかねない、気もする。去勢くらいで済めば良い方か。
遠い目をする俺をよそに、キルゲはひとり軽いパニックに陥っているようだ。
現状をどうにかしたいが、触れるのも触れられるのも抵抗が凄いらしい。
ひと肌脱ぐぜ、あんたの為なら。

「淡白な方だとは思うが、俺も自分で触れることあるぜ?だからあんたの心配は今更といえば今更だな」
「えっ」
「あんたの言葉を借りるなら、俺はもうとっくに穢れてんだよ。でも、健全な男子ならそれがふつーだったりもする。だからさ。触らせてくれよ、あんたに」

青褪めていたキルゲの頬に紅が差す。そして、聴き取れるギリギリの声量で「お願い、します」と返事があった。
よし!!と気合を入れ、しかし力まないように注意を払いながら、こわれものに触れるやさしさで雄芯を撫でる。抱き締めた体が強ばるのを宥めるように上下に手を動かす。
恐らく初めての強烈な快感に、腕の中でキルゲが身悶える。

「ゃ、ああ……っ」
「気持ちよく、ねぇかな」
「わかりませ、んん……!……ひ、ぁん!」

そうは言いつつも、手の中の彼自身は着実に成長していっているため、一先ず安堵する。そのうち溢れ出した透明な滴を幹の部分にも満遍なくこすりつけていけば、先程よりもスムーズに動かせるようになった。
自分ならここなんだよなぁと、鈴口を親指の腹で軽くぐりぐりしてやれば、キルゲは腰を引こうとして背後の俺に阻まれ逃げ場をなくしされるがままになる。

「ああっ!そこぉ、ぐりぐりだめ……ですっ、ぅん!」
「よしよし、このまま気持ちよくなろうなぁ」

あやすように頭を空いている方の手で撫でれば、キルゲの声が涙にけぶり始めた。
ひぐ、と涙声を上げ、キルゲは俺に翻弄されている。
愛しいなぁ。かわいいなぁ。大事にしたいなぁ。そんな思いが俺の胸の内を満たしていく。

「あ、なにかっ……きちゃいます……!手ぇ、て、はなして……くださいぃ」
「ここで止めたら苦しいままだぜ……だいじょうぶ、このままイきなよ」

手の動きを早めれば、キルゲは背を弓形に反らして達した。

「ん、あぁ、あ、あッ!でちゃ、ぅ───ッああああ!!」
「おっとぉ」

勢いよく溢れ出た白濁を手のひらで受け止めた。
はくはくと浅い呼吸を繰り返し、キルゲは俺に凭れ掛かってきている。
結局、やっちまったなぁと懺悔したい気持ちになりながら彼の体を支えていると、名を呼ばれた。

「ありがとう、ございました……貴方が貴方で良かった」

……あぁっ!御手を汚してしまいました!申し訳ありません……!!
そう言いながら立ち上がると、未だ覚束ない足取りで洗面所まで俺を連行していく。
その際少しだけ前屈みな俺を不思議そうに見つめて、「もしかして……今度は私がシて差し上げる番でしょうか……?」と訊ねてきた。
彼に今触れられたら暴発する自信があった俺は丁重にお断りしておいた。
手を洗っている最中、「キルゲはッ!?」と部屋の扉を蹴破って入ってきたお転婆娘から、キルゲに媚薬を盛った良からぬ輩を始末したことを知らされて一息つく。部屋の有様と上しか着ていないキルゲを見てすべてを悟ったらしい彼女から、「あたしが一から教える予定だったのに……!」と嫉妬ギリギリされるのはそっと気づかない
ふりをした。

コメント