Erste Liebe

ふた×男にご注意。

R18ご注意。

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「はぁ、本音?」
端正な眉を釣り上げて、バンビエッタは同僚のジゼルを睨みつけた。
「そう。いつも言ってるでしょー、何考えてんのか分かんないって」
袖から少しだけ見えている細い指先に、小さな瓶を摘みながらジゼルは答える。
バンビエッタの不機嫌などどこ吹く風だ。
彼の持ち出す薬品にはそれなりに世話になっているバンビエッタは、胡乱気な目をしつつもその小瓶をむーっと睨む。
「こんなんで分かるわけ?」
ジゼルが彼女の目線の高さまで小瓶を持ち上げて、軽く揺する。薄紫色の液体がとぷりと音を立てた。
「たぶんね」
いつも通りの軽い調子で話すジゼルと紫の小瓶をじっくりと見比べた後、バンビエッタはぱしりとそれを取り上げた。こんな胡散臭いもの…と思いつつも、飄々としていけ好かないあいつの本音が分かるかもしれないという誘惑に負けたのだ。
「…んー…ま、一応貰っておくわ」
上から目線でそう言うと、踵を鳴らして部屋をあとにした。
扉が閉じるのを見計らって、二人のやり取りを傍観していたリルトットが口を開く。
「…まさか協力するとはな」
「べっつにィー。面白い事になればいいなって思っただけぇ」
口元だけ笑みを作り表向きは無邪気に答えるジゼル。
「面白くはならねぇだろ…」
幼い容貌に似合わぬ荒い口調でぼやき、リルトットは表情を歪めた。

ベッドから女性の甲高い矯声が響いている。この部屋の主には、実に似つかわしくない状況だ。
そのベッドの上、手首を上方に拘束された状態で、バンビエッタが寝転がされている。彼女の脚の間には蹲ってその中心を咥えるキルゲがいた。これだけ見ると犯行現場である。が、この事態を招いたのはバンビエッタ自身であった。ジゼルから受け取った薬を舐めさせられたキルゲによって、見る間にこの格好に持ち込まれてしまったのだ。
「ひゃぁあ…!っあ」
「ぅん、く…。ひもひぃえふか…?」
「あっしゃべっちゃ、だめぇ!」
「ふぁっ…おっきくなりましたねぇ」
口からバンビエッタ自身を離し、手でくちくちと撫でながら愛おしそうに言うキルゲ。
「あっぅ、どう、して、っこんなぁ」
口淫など自分からしたためしなどない彼が、なぜ急にこの様な行為に走ったのか分からないまま事が進み、バンビエッタの頭の中は疑問符とハートマークでいっぱいだった。
舌と指の動きそのものはひどく拙いが、彼がソレをしているという事実に感じてしまうのが悔しく、バンビは頬を更に紅潮させる。
「どぉして、ですかぁ。」
途切れがちな彼女の質問に、キルゲはこくりと小首を傾げ、不思議そうに言った。酔っ払ったようにくふくふと笑っているが、その瞳はどこか昏い色をたたえている。
キルゲが徐ろに片手を自らの臀部の窪みに這わせた。バンビエッタの体液と彼自身の唾液で滑った指は、熟れたそこにすんなりと飲み込まれていく。
「だってぇ、ん、きもちよくなってほしいんですぅ、っ」
要領を得ない答えに、ただでさえくらくらしているバンビの脳内は余計に混乱した。今すぐ張り倒してぶち犯してから一つ一つ尋問していきたいが、拘束されているのでそれも叶わない。
バンビがそう考えている間も、キルゲはバンビ自身を愛撫し続けている。彼の後ろを犯す指も既に3本となっていた。お互いから聴こえる水音に聴覚すら犯されて、バンビエッタの腰がびくびくと震えだす。
「やぁあ、あんっもう、あっあっ…!」
「ぁは、もう射精てしまいそうですねぇ…でもぉ、まだだぁめ、ですよう?」
そう言うとキルゲは後孔から指を引き抜いてバンビエッタの腰に跨り、彼女のペニスを後孔にあてがった。そして一息に腰を落とす。
「えっ!? あっやだやだああぁあ…あぁっ!!」
拙い攻めで散々焦らされてからの急激な熱さに、バンビエッタは我慢できず射精してしまう。
「んぁっ!あぁ…でちゃったぁ…!」
彼女の熱い迸りを胎内で受け止め、キルゲはしょんぼりとだがどこか幸せそうに後ろを見遣った。そしてすぐに気を取り直してバンビの顔の側に手をつき、腰を軽く浮かせた。硬さを失う前にまた腰を落とされる。
「ひゃぁん、まらぁ、らめぇ…あ、あっ!」
「きもちぃい、ですかぁ…?ふ、ふふ、もぉっと、きもちよく、なりましょう、ねぇ」
腰を上下させながら心底嬉しそうに微笑む。先程から会話が噛み合わない。
『バンビエッタを気持ちよくしたい』仮にあの薬が効いているのなら、これが彼の本音なのだろうか。何故だろう、と回らない頭でバンビエッタは考える。普段の彼の言動は、はっきり言って枯れている。というのは表向きなポーズで、性的な事象を過剰に避けているようにバンビエッタには感じられる。いくら感じ入っていても、理性を保とうと与えられる快楽に必死に抗うのだ。そんな彼がこの様な暴挙にでる理由とは。………。
ふと、バンビエッタの頬に生温い雫が落ちてきた。何粒も、まるで雨にように降ってくるそれは、キルゲが流す涙だった。はらはらと流れるその水は、明らかに快楽からくるものではない。そもそも彼の動きは自分の快感を追うものではなく、バンビエッタのそれを引き出そうとするものだ。それに、普段の行為中ですら、ここまで泣かない。尋常ではないと判断したバンビエッタは、彼の頬に手を伸ばそうとして思い出した。
「あぁ、あっ手、てぇはなしてぇ…あぅっ!」
ペースを奪われただけでこうも乱れてしまうなんて、普段の彼を笑えないと自分を叱咤する。
「てぇ…あん、どこにも、いかなぃからぁっ」
必死に言葉を紡ぐと、キルゲがぴたりと動きを止めた。
「……どこにも?」
この機を逃すまいと頭をフル回転させて答える。
「い、いかない、どこにも…!」
キルゲは瞬きを繰り返した。睫毛の先で雫が弾ける。小首を傾げてバンビエッタを見下ろすその目からは、未だに涙が流れ出ている。バンビエッタはあやすようにじっとキルゲを見つめ返した。彼の瞳からは先程までの仄暗さは掻き消えているようだった。そろりと、彼がバンビの手首を撫でる。すると、手の拘束具が中空に溶けて消えた。
自由を得た手を伸ばし、キルゲの頬を伝う雫を拭う。次から次に溢れるそれを、根気よく掬い上げてやる。身を起こして真正面からを見つめ、ずっと気にかかっていた事を問うた。
「どうして、私を気持ちよくしたいの…?」
「…だって、ぇ、どこかに、いってしまうから」
ひっくとキルゲがしゃくり上げる。
「どこかって?」
「…ほかのひとの、ところ、です」
「…なるほど」
答えは至極単純だったのだ。ただ、普段の彼の振る舞いからは想像できない事だっただけで。
「意外と嫉妬深いのね…」
おまけにその嫉妬の範疇にまさかバンビエッタも含まれるとは思っていなかった。いくら身体を繋いでも、キルゲがあくまで同僚として良好な関係を保とうという生意気な姿勢を崩さないからだ。彼がそんな調子のため、バンビエッタは気付かないうちに彼の気持ちを無視した行動をとり続けていたわけだ。
とはいえ、バンビエッタが彼以外の者を相手にするのは、今や殺人衝動が高まったときだけだった。キルゲという格好の玩具を見つけたため、性処理目的のみの関係は持っていない。だが、そういった事情はあえて彼には伝えていなかったからか、不安が募っていたのかもしれない。
「あんたねぇ、そういうことはちゃんと言いなさいよ」
最後の一滴を、親指で拭ってやる。
「ごめんなさい…」
「いや、別に謝らなくてもいいけどさ…」
ここにリルトットが居たなら、謝るのはオメーだろうが、と釘を指していた事だろう。
「きもちよくありませんでした?」
「いや、そうじゃなくて………あぁもう! いいから伏せっ!」
彼の本音の理由を考えれば考えるほど顔に熱が集中する気がして、バンビエッタは乱暴に命じた。
キルゲは少し不安げな表情のまま、それでも素直にベッドにうつ伏せる。常の躾の賜物か、きちんと腰は高く持ち上げた状態でだ。
主導権がバンビエッタに戻った。お互いに気持ちよくなるには、これが最も二人に適した状態だろうと確信しているバンビエッタは、大人しく「待て」をしている彼を見てうっとりと笑む。
「あんたが心配しなくてもねぇ…」
言いながら己の中心を後孔に押し付けぬるぬると入口付近を刺激してやれば、弱々しい快感にキルゲの背中が粟立つ。急かすように揺れる腰にぴしゃりと張り手を与えると、嬉しそうに啼いた。
「私は、ちゃんと、気持ちいいの」
ずぷりと先端を押し込み、粘膜の柔らかさを味わいながら、そのままじっくりと腰を進めていく。
「んあ…きたぁあ…!」
愉悦の声をBGMに、律動を開始した。
「あっあぁ、バンビエッタぁ…あん、んっ」
「で、あんたは、どうなのよっ」
「きもちぃ、ぁ、きもちぃいれすぅ…んっ、もっとぉ…!」
バンビエッタを攻めている時の余裕は消え、ひたすら快感を享受することしか出来なくなったのか呂律も回っていない。それでもぎこちなくバンビエッタの動きに懸命に合わせようとしているのが彼女をたまらない気持ちにさせる。
「普段偉そうなこと、言ってるくせにっ、女の子にふたなりちんぽお強請りするなんてぇ、恥ずかしいと思わないの…!?」
「あぁっあっ…い、言わない、でぇ…ぁあぁッ!」
生意気を言うなと尻を平手打ちしてやれば、後ろが切なげに締まる。バンビエッタはこの瞬間が好きだ。互いの加虐心と嗜虐心といった欲望がかっちりと噛み合っていると実感できるためだ。だが、一つ難点がある。あまり言い過ぎると、恥辱に耐えられなくなった彼が枕に口元を埋めて、喘ぎを死ぬ気で我慢してしまうのだ。それはそれでアリではあるが、呼吸を詰めてしまうのに気付かずやり過ぎて気絶させてしまったことがあった。今回もそこに留意しなければ、と考え、とりあえず腰を打ちつけることに専念しようとしていたのだが。
「ぃいっ、きもちぃ…ばんびぃ…!」
名を呼びながら、キルゲが身を軽く捻ってバンビエッタへと手を伸ばしてきた。その手を取ってやると、きゅっと力を込められる。
「ん…なぁに?」
「ばんびっ、すきぃ…すき、なんですぅ…すき、」
「…はっ!?」
舌足らずに好意を告げられて、俄には反応できなかった。キルゲがバンビエッタを気持ち良くしたかった理由。深く考えるのが恥ずかしく思考を途中放棄していた答えが今、本人から投下されてしまった。
思わず止めてしまった律動に、キルゲが不満げに腰を揺らす。いつもの彼ならこのようなお強請りはしてこない。だが、それに対応してやれるほど今のバンビエッタは冷静ではなかった。「好き」なのか。彼は、私のことが。それが彼の本音なのか。たとえこれが薬によって引き出された言葉だとしても、顔が勝手に笑みの形をとってしまう。体中の血液が沸騰したように熱い。心臓が痛いほどに脈打っている。
「好き…なんだ。私のこと」
「はぃ、いたいのもはずかしいのも、ばんびだから、きもちいぃんです…」
「(ちょ、素直すぎでしょっ)」
何度も言うが普段の彼からは絶対に想像できない姿である。とはいえ、好意を向けられていると自覚すると、これまでは八つ当たりの為の足掛かりでしかなかった彼の痴態が非常に扇情的なものに見えてくる。切なげに漏れる吐息。シーツを握りしめる右手。バンビエッタの手を控えめに握る左手。眉根を寄せて頬を濡らす横顔。汗の筋が伝う背中に、きゅっと彼女自身の形を確かめるように締まる後孔。全身でバンビエッタを受け止めようとするキルゲの全てが、バンビエッタの劣情を痛いほどに煽ってくる。条件付きとは言えここまでひたむきに感じ入り、応えてくれる彼を、とびきり気持ちよくさせてやりたくなる。 そう思うと同時に彼の顔を見たくなり、腰を掴んでひっくり返した。解けた手をもう一度繋ぎ直す。
「…へぇ、私だから、オナホ扱いされても気持ぃんだぁ」
「ッ! 」
態と蔑むような目線で見下ろしつつ言うと頬を赤らめて絶句するが、胎内はきゅんきゅんと締め付けてくるので台詞にすら感じているのだと分かる。目には涙を浮かべているが、そこに映っているのは愉悦と、期待。バンビエッタの一挙手一投足を、今か今かと待っている。いつもお高くとまっている彼が女性であるバンビエッタに犯され苛まれて気持ちよくなっているという事実に、バンビエッタ自身もより昂る。ぶち犯してあげたいという衝動のまま抽挿を再開した。
「や、ぁああっはげし、ぃ…!」
「私に、好き勝手に、犯されるのが、快感なんでしょっ?」
「そう、です…ぅあっあっ、あっ!」
繋いでいた右手を中心に持っていってやれば、夢中で手を上下させる。常ならば触れる事すら厭うそこから生まれる浅ましい快感を貪っている。今の彼は、バンビエッタから与えられる快楽を、何の抵抗も感じずに受け取ることが出来る状態であるようだ。ただひたすらに「好きな人」に身を委ねている。
「(媚薬とかよりヤバいんじゃないこれ)」
「 あ゛っあぁああ、すご、これぇ、しんじゃぅう…んあぁあ!」
「ほら、イきなさいっ、 イけ! 肉オナホの分際でびくびく射精しながらイっちゃえっ!」
「あぁっばんびぃ、ばんび…ッ! ぁ、いく、いくいくっ…ーーーッぅあ、あ゛!!」
「んあっ、く、ぅ…ッ!」
キルゲの絶頂と同時に収縮した胎内の蠕動に合わせて射精する。更に搾り取るように中心を扱いてやれば、びくびくと残滓を零してそのまま意識を手放してしまった。
くったりと投げ出されたキルゲの体の上に倒れ込む。未だ絶頂の余韻を残して震える体は心地よい温かさで、バンビエッタを眠りへと誘った。

頭を優しく撫でられる感覚に、意識が緩やかに浮上する。
瞼を開くと、こちらを見つめる碧と目があった。
あれからどれほどの時間が経ったのだろう。
身を起こそうと思うがそれも億劫でうつ伏せたままゆっくりと瞬きする。髪を手櫛で梳かれる感触が心地よい。未だ気だるい疲れが残っているあたり、あまり時間は経っていないようだ。
「…シャワー、浴びないの?」
「えぇ、もう少しだけ…」
吐息混じりにそう言ってこちらの髪を指先で弄んでいる。何が楽しいのか分からないが、悪い気はしないのでそのままにしておく。
いつもなら行為が終われば真っ先にシャワールームに向かってしまうのだが、今日はそうではないらしい。これもあの薬のお陰か、とじんわり考える。
「そんなに私と一緒に居たいんだ」
「…いえ、」
その答えに違和感を感じてがばりと身を起こす。てっきり肯定が返ってくるとばかり思っていたのだ。薬が切れてしまっただけならまだいいが、もしや。
「…さっきの事、覚えてる?」
きょとんとこちらを見上げる相手に恐る恐る訊ねてみる。少し声が震えた。
「それが、途中から記憶が朧気なのです。貴女またおかしな薬を盛ったでしょう。」
返答を聞いてがくりと腕の力が抜け、ベッドに身を伏せる。あっけらかんとした彼の様子を見るに、あの舌足らずな告白は記憶から抜け落ちてしまったようだ。何となくそんな気はしていたが、いざそれが現実となると非常にやるせない。
「…さてと」
彼の手が離れてゆく。その指に纏わりつく髪が自分の心情を如実に表しているようで妙に恥ずかしい。なぜ自分だけこのような思いをしなくてはならないのか。何か言ってやりたくて、彼の手を掴んだ。
びくり。
手を握った瞬間、大袈裟に彼の肩が跳ねた。そして顔を背けてしまう。…この反応は、もしかしなくても。
身を起こし彼の耳元に口を寄せて囁いてみる。
「…私の事、好き?」
「そ、そんな訳…」
「耳、真っ赤なんだけど」
ついでにうなじも。そう指摘してやれば、ますます顔を背けてしまう。身を乗り出して覗き込むと、今にも泣き出してしまいそうな目を向けられた。それを見て、悪戯心が頭をもたげる。
「ねぇ、キスしてみる?」
上目遣いで提案してみると、やんわりと肩を押された。
「いけませんっ、そのような事…!」
そのままベッドから降りて足早にバスルームへと向かってしまった。
広くなったベッドに大の字に寝転がる。散々最後までヤっておいてキスは駄目って、と思わず吹き出してしまう。戻ってきたら本当に口付けてやろう、と算段をつけながらもう一度目を閉じた。

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