show me your ego

R18ご注意。

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今日、恋人ができた。
出逢ってから五年。お付き合い歴、約一時間。
俺の背には完聖体にならずとも羽根が生え、どこにでも飛び立ててしまえそうな心持ちだった。
“だった”。そう、過去形だ。
今でも彼を想うとふわふわと浮足立ってしまうのは確かだ。けれど。
目の前で繰り広げられる光景が真実だと、誰が信じられるだろうか。

「ほら隊長、もっと腰使って」
「はぁい、ん、こう……ですか、ぁんん」
「隊長ぉ、オレのも可愛がってやってくださいよ」

だって、五年間煮詰めた末に拗らせまくった俺の告白に対して「ええ、お付き合いしましょう」と、とびきりの微笑みで返してくれたのは、紛れもなく彼─キルゲだったはずなのに。

「あっ激しッ、あ、ぁあ、あ」
「分かる?隊長のココ、オレの離したくないって、きゅうきゅうしちゃって」
「あえてズコバコしてあげると切なそうに啼いてくれるんすよね」
「待って……!ぃ、イってます、からぁ──ぁあッ、ッ」
「あーあ、トんじまってら、かぁわいい。さっきまであんな真面目そうなカオしてたのに、実はただの浅ましい男狂いだなんて、これは立派な裏切り行為っすよ隊長ぉ」

男たちが下卑た笑い声を上げる。
その時、キルゲの瞳からひとしずく、溢れたのが確かに見えた。それが快楽からくるものなのかは、正直判らない。でも、恋したひとが泣いているという事実は、俺の頭に血を上らせるのに十分過ぎた。
扉を開け放つと同時に神聖滅矢を放つ。聖文字を使えばより奴らを苦しめる事もできた筈だが、一刻も早くこの異様な空間をぶち壊してしまいたかった。
突然不自然に止んだ嘲笑と、全身に舞った血飛沫に、キルゲは「んぅ……?」と不思議そうな声を上げた。
飛廉脚で近付いて、彼の上にのしかかる骸を蹴り倒し、側に寄り添う。

「アスキンさん」
「あんた、何してんのさ……?」

しわくちゃになっていたシーツをベッドからはぎ取り、身を起こしたキルゲに纏わせる。多少血に濡れてはいるが、彼が浴びた量よりはマシだし、何より想い人の生まれたままの姿は俺には刺激が強過ぎた。
俺自身ものすごく驚いたが、あの光景を見ても尚、俺の恋心に迷いは無かった。ショックを受けなかった訳がないし、それを理由に彼を突き放してしまう事もできる。だが、先程見たキルゲの涙のワケを知るまでは、彼を信じていたいと心が叫んでいた。

「襲われた、とかじゃあないよな。あんな三下相手に遅れをとる筈がねぇし……」

じゃあ、どうしてなんだ。
そう問えば、あっけらかんとした様子で、キルゲは答えた。

「コレをすると、皆さんお仕事を頑張ってくれるのですよぅ?」

甘ったるい声でそう告げられて、目眩がした。

「頼むから、自分をだいじにしてくれ」

彼の手をとり、握りしめ、祈るように言う。
するとキルゲはことりと小首を傾げた。

「?、お父様も教官も、部隊の皆さんも喜んでくださったのですが……もしやアスキンさんはお嫌いでしたか?それとも、このようなおじさんでは反応しませんか。
いやはや、お恥ずかしい限り。私もそろそろ潮時かと思ってはいるのですが、求めてくださる方が居るのならお応えしなくてはと思ってしまいまして。士気が上がる傾向もあるので多少役立ちそうな方々はこうして労っているのですよ」

ぺらぺらと語るキルゲは俺の表情が険しくなっていく理由が解らないようで、一頻り説明を終えたあとはきょとんと俺を見つめるだけだった。

「……俺は、」

俺は?
言葉が続かない。
何れは彼と夜を共にしたいと漠然と思ってはいた。でもそれはもっとずっと先の出来事だと思っていたし、この行為が常習的だったのならそれに気付けなかった俺は一体彼の何を見てきたのかと自信喪失も甚だしかった。泣いてしまいそうだ。目頭と鼻がつんと痛む。そこではたと気づくことがあった。キルゲの、先程の涙の理由をまだ訊いていない。

「あんたに泣いてほしくねぇんだよ。コイツ等はあんたを泣かせた。それが許せねぇ」
「泣いてましたか?」

返事の代わりに親指の腹で彼の目元を拭う。その時初めて自分の涙の跡に気付いたらしく、慌てて取り繕うようにキルゲは笑った。

「あ、はは。どうしてでしょう。いつもはこのような事は無い筈なのですが」

そう言うキルゲの碧い瞳から、ほろりと涙が溢れ出す。泣き笑いの表情で、彼は自分の変化に軽く混乱しているようだった。

「あっ、ごめんなさい。泣かれたらうっとおしいですよね。すぐ泣き止むので、どうか、どうか、」

そこでキルゲは縋るように俺の袖口を握り締めた。依然として雫はほろりほろりと流れ落ち続けている。

「どうか、なに?」

目を擦る手をやんわりと止めてやりながら、キルゲの言葉の続きを促す。

「……ッ、これ以上貴方に縋り付く権利を私は持ちません。貴方のこいびとになど、なれる筈がなかったのです。私はこれでも、自分の浅ましさを多少は自覚しています。にもかかわらず、貴方の告白に応えてしまった。それが間違いだったのです」
「ちょっと待った。勝手に終わりに持っていかないでくれよ。俺たちの恋、始まってまだ二時間も経ってないんだぜ?」

ま、俺の一方的な恋は五年くらい経つけど。
そう言いながら、キルゲを抱き上げる。ガタイの割には軽い彼を所謂お姫様抱っこして、浴室へと向かう。

「なぁ、自惚れちまってもいい?」

腕の中のキルゲに問う。彼はどこ恐れたような表情で首肯した。

「あんたが泣いたのって今回が初めてだったりする?……その、気持ちよすぎて、とかじゃなくてさ」
「え、えぇ。恐らく」
「もしかして、アノ時俺の顔思い出したりした?」

この質問に、キルゲは目を丸くした。

「どうしてお分かりに?」
「……なんつーか、俺って案外愛されてたりすんのかなーって」
「判りません。これまで様々な男性を受け入れてきましたが、貴方はその誰とも違う目をしていらっしゃった。この穢れた身に余りあるほど、誰よりも強く射抜くような視線を向ける割には、その瞳に込められた感情は水を打ったように静かで……。それが、何と言いますか、嬉しかったのです。だからこそ、行為の最中に貴方を思い出してしまう自分に嫌悪感を抱いたのかもしれません」

え、それって……ベタ惚れ、ってことなんじゃねえの……?
そう都合よく考えながら、キルゲを浴室の床に下ろした。
タイルの冷たさにふるりと身震いするのを見て、急いでシャワーの温度を調節する。

「あ、あのさ。あんたには悪いけど、俺も男っていうか、そういう目であんたを見てない訳じゃなかったっていうか……」

温まったシャワーを、ひとことかけてからキルゲに浴びせる。
血色の薄い肌にこびり付いていた赤黒が排水口に流れていくのを、彼はぼんやりと見ていた。

「そういうのも”込み”でお付き合いしたいっていうか……」

ごめんなぁ。と謝りながら、キルゲの身を清めていく。
するとキルゲは瞳を輝かせた。

「ほんとうに……良いのですか?」

固唾を飲み込んで、頷く。
すると、キルゲの表情がぱぁっと華やいだ。

「……うれしい、です」

頬を染めて落とされた言葉に、俺は天にも上る気持ちになった。
有頂天でキルゲのからだを洗いながらぼそりとこぼす。

「なぁ、あんたのナカ、俺の手でゆすいじゃ駄目かな」
「えっ?」
「俺も嫉妬とかしない訳じゃないからさ。他の男共のマーキングを自分で消したい」
「あ……あの、その……貴方が、良いと思ってくださるなら、お願いしたいです……」

そう言うとキルゲは自ら膝立ちになり、脚を開いて受け入れる態勢をとった。
積極的なその様子に先程とは別の理由で目眩がした。シャワーをフックにかけて、ふたりで湯をかぶる。制服がびしょ濡れだが、まあどうでもいい。
正面から彼を抱き竦めるようにし、後ろの窄まりに手を伸ばす。割れ目に指を滑らせると腕の中のキルゲのからだがひくりと震えた。
入り口を探し当て、指の腹で縁をなぞる。先程まで酷使されていたそこは、熟れきっており力を込めずとも俺の指先を呑み込んでいった。

「ふぅ………あっ、ん。ごめ、なさい。へんな声、出ちゃいます」
「我慢しねぇで、好きなだけ声出してくれよ。むしろ聴きたい」

抜き差しを何度か繰り返し、具合を確かめつつ進む。
抱きついてくる腕に力が込められた。
指を少し曲げてナカに出された体液を掻き出すような動きにシフトすると、キルゲの口からひっきりなしに甘い声が溢れだした。どうやら彼のイイ所を掠めてしまうらしい。

「あッ!あぁん、そこ、だめですッ……ッ感じちゃ、ぅう!」
「後処理でヨくなっちまうっていうのも中々難儀だねぇ。俺としては大歓迎だけど」

ナカに収めた三本指でくぱっと開けば、どろりと指を伝う感覚がした。他人の精液だと思うと寒気がするが、それが想い人の胎内にある方が耐えられないので我慢する。

「分かるかい、今あんたの中に出されたモノが伝って出ていってるのが」
「は、いい……ッ!はぁ、あん、気持ちいぃ、もっとおくぅ……くださ、いッ!」
「だぁめ。今は後処理の最中だろ?まだあんたに手を出さないって決めてるんだ、俺」
「い、いじわる、しないでくらさい…ぃ…んぁ、あっ、あ、あ」

本格的に感じ始めたらしい彼を見て、少し酷な事を言ったかなと軽く後悔する。俺の中心も反応しまくってはいるが、今日のところは我慢。これは俺のただのエゴだが、アイツらと同類になってキルゲを犯す存在になりたくなかった。
ぐすっと湿っぽい音が聞こえてきて、あぁ、泣かせちまったと思うと同時に、背筋がゾクゾクっとするのを自覚する。
このまま行けばヤバイ気がしたので、指の動きに集中する事にしてくちくちと彼のナカを撫でる。

「ま、だですか……っあん!わたし……も、むりですぅ」
「あぁ、そろそろ良いか。……でもそのままじゃつらいもんな。一回イっとくか」
「え、?だって、あ、後処理だけって……仰ったの、にぃ…!」
「えーっと、この辺りだったよな?」
「あ゛ぁ゛ッ!!?あ、やだ、ゆびだけで、い、イってしまい……ッますぅ、んああ、あっ、あ、ぃくいく、いっ……くぅ!!───ッ!、!!」

浴室に反響するキルゲの嬌声にくらくらしつつ耐える。今にも襲いかかってしまいそうだった。
くたりと凭れかかる彼の全体重を受け止めて、空いている方の手でシャワーを止めた。
すると、抱きしめていたキルゲがふふっと吐息のような笑い声を洩らした。

「アスキンさんの……勃ってますねぇ」
「そうだねぇ。先に出てくれるか、ちょこっとしたら俺もそっちに行くからさ」
「私が手か口でする……と言っても断られるのでしょうね。今の貴方は。」
「まずはプラトニックで段階を踏んで行きたいんだ」

俺の自己満に付き合わせちまって悪いなぁ。

「……なぁ、さっきも言ってたけど、あんたの初めての相手って」
「ん……父ですが」
「そっか。最初の男がそれじゃあ俺に勝ち目はねぇけど、最後の男にはなれるよな?あんたを俺ひとりで満たせる自信がある訳じゃねえが、頑張りたい」
「そのように言ってくださったのは、貴方が初めてです。このような私でも良いのなら、抱いてくださるのを楽しみに待つとしましょう」

部屋へと向かいながら愉快そうに言うキルゲの声に、俺も幾らか満足して浴室の扉を閉めた。

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